キスはワインセラーに隠れて
それを聞いた須賀さんは、私の前から移動して隣のベッドに腰を下ろすと、静かに言う。
「そんなに気を落とすな。……俺は別に、オーナーに話す気はない」
「え……?」
……一体どうして?
私は目を丸くして、須賀さんを見つめる。
「あの人、香澄さんのことがあってから“女性従業員”ってモンに敏感になりすぎなんだよ。
俺は常々、あの店の“男しか雇わないシステム”には疑問を持ってたから、別に庄野の存在を否定しようとは思わない」
「す、須賀さん……!」
ここでまさかの、味方登場ですか……!?
しかも、よりによって絶対味方にはなり得ないと思っていた人が……!
「ただ――――」
ぎし、とベッドをならして立ち上がり、壁際に置かれていた小さなスーツケースに手を伸ばした須賀さん。
彼はいつの間にか下ろしていた長い髪をかき上げると、鋭く目を細めて言う。
「お前を女と知ったうえで、一緒の部屋で寝るわけにはいかない」
……ドキ、と胸が小さく波打った。
こんな風に“女扱い”されたのが、久しぶりすぎるせいかもしれない。
他の同僚……本田とは、完全に男友達だし。
藤原さんに至っては、犬か猫扱いだもんね……
そう思いながら同僚二人の顔を思い浮かべていると、スーツケースを転がし扉の前で止まった須賀さんが言う。
「アイツらのうち、どっちかと部屋を変わってもらうことにする」
「……え?」