キスはワインセラーに隠れて
「……服、濡れるからお前も脱げばいいのに」
「いえ! 結構です!」
脱衣所とバスルームの境目に膝を付き、腕まくりをした私は藤原さんに泡立ててもらったボディタオルで、椅子に座る彼の背中をそうっと洗っていた。
「ぜぇぇったいにこっち向かないで下さいね」
「……わかってる。ったく、なんでそんなに自分の身体がコンプレックスなんだ?」
前を向いたままの藤原さんに聞かれて、私の手がぴたりと止まった。
さっき咄嗟に考え付いたその言い訳は、まるっきり嘘っていうわけでもなかった。
だからこそ、何気なく口をついて出てしまったのかもしれない。
「……前、付き合ってた人に、バカにされたことがあるんです……」
藤原さんは、前に自分の恥ずかしい話を私に打ち明けてくれた。
だからなのかな。
親友の小羽にすら話していないことだけど、彼なら笑ったりしないで、受け入れてくれるような気がした。
「男のくせに貧相だって?」
「……はい。それに似たようなことを、言われました」
――あれは、大学二年の夏のこと。
小羽と一緒に恋人のいない者同士、二人で海に行こうってことになって……
「ビーチで、ナンパ……逆ナンされたんです。夏だし、海だったし、なんか、開放感って言うのかな……その勢いのまま、その女の人と付き合うことになって」
今考えれば、その相手(もちろん男)に好きだって気持ちはなかった気がする。
でも、誰かと付き合うってこと自体が初めてだったから、そのことに舞い上がって、すぐに身体も許してしまって……