キスはワインセラーに隠れて
「俺、初めてだったから何もわからなくて。そういう無知な部分も相手にとっては物足りなかったのかなと思いますけど……」
ベッドの上で、私はほとんど動かずに、相手のすることを受け入れて……っていうか、むしろ“耐えてる”っていう感覚に近かったかもしれない。
『気持ちいい?』って聞かれても、『わかんない』って答えることしかできなくて。
実際、身体の準備もなかなかできなかった。
「……全部が終わった後で、言われました。“悪いけど燃えなかった”って。その相手とはそれきりです」
「はい、終わりました」そう言って藤原さんにボディタオルを返し、バスルームの反対側にある洗面台で泡のついた手を洗った。
やっと終わった……。
平気なふりしてたけど、結構ドキドキしてたんだから、もう勘弁してよね、全く……。
心の内でそんなことを呟きつつ、備え付けてあるタオルで手を拭いて脱衣所から出て行こうとした時だった。
「……お前も俺と同じ、だな」
そんな声に振り返ると、さっきと同じ姿勢のままでこちらに背中を見せた藤原さんが、顔だけ私の方へ向ける。
「お前、こないだ俺に言っただろ。“藤原さんを本気で好きなら、ワインのうんちくも一緒に楽しめるはず”って。お前の場合も同じだろ。きっと相手が本気じゃなかっただけだ」
「……藤原さん」
彼なりに慰めてくれているのかな。
もちろん私自身にではなく、“男”の環に対して――なんだろうけど。
でも、少しだけ……救われたような気持ちになってる。