キスはワインセラーに隠れて
バスルームの扉が閉まり、シャワーを流す音が聞こえ始めると、私は扉の前に立って、磨りガラスの向こうの背中に問う。
「俺のこと、本気で好きになってくれる人なんて……この先、現れるのかな」
頭からお湯を掛けているみたいだから、私の声は届かないかもしれない。
それでもいいやと、小さな声で呟いた言葉だったのに。
きゅ、と水道の止まる音がしたあとで、ちゃんと答えが返ってきた。
「……それはお前次第だろ? ま、もしも現れなかったら、一生俺のペットでいさせてやるから安心しろ」
……優しい、のか? いやいや、優しくないでしょ一生ペットって。
でも、きっと藤原さんなりに、私を元気づけようとしてくれてるって言うのはわかる。
俺様だけど、そういうところは好きかもしれない。
もちろん、一緒に働く仲間っていう意味で。
「……そうならないように努力します」
「ああ。……ところでそろそろ出るけど、そこにいていいのか?」
「え! あ、あと五秒待ってください!」
――こういうピンチはあったものの、藤原さんとの夜は、思っていたより危険なものではなかった。
身体に関するコンプレックスを話したせいなのか、私がシャワーを浴びている間は放っておいてくれたし。
それから夜遅くまで、藤原さんの持ち込んだUNOを二人でやって、修学旅行の夜みたいにはしゃいだ。
須賀さんに正体がばれてしまったのは予定外だったけれど、やっぱり私はまだ“男”の環でいたい――
そんなことを考えながら、日付が変わった頃に藤原さんの隣のベッドで眠りについた。