キスはワインセラーに隠れて
私の姿を上から下まで何往復するんだってくらい、眺めまくる本田。
そんなに見られると、なんだかいたたまれない……
「……いらねーな、ウイッグ」
「え?」
「いや、環を女に見せるために――って、美容師の友達から借りてはきたんだけど、このままでも十分だ。
つか俺ホントは髪短い子の方が好きだし」
そう言った本田に何気なく髪に触れられて、少しだけドキッとした。
いや、別に私を――ってわけじゃなくて、世の女性の中で、髪が短い方が好きって言ってるだけだよ。
照れるのはお門違いだ。
「環。――手ぇつないでいい?」
「て、手? そこまでやる必要なくない!?」
「いいから」
強引に手を取られて、重なったお互いのてのひら。
身長差はたぶん五センチ未満だから、あまり本田に“男”を意識したことはなかったけれど、手はやっぱり本田の方が結構大きい……なんて、改めて考えるとやっぱり恥ずかしくなってきて。
「や、やめようよ、やっぱり」
「……もうちょい我慢して。あと数十秒だと思う」
……数十秒?
私が首を傾げた瞬間、背後から小さく震える声が聞こえた。
「本当だったんですね……彼女、いるって」
振り返ると、瞳を潤ませた女性の姿。
もしかして、かなえちゃん……?