キスはワインセラーに隠れて
「……うん。騙すつもりはなかったんだけど……言い出せなくて、ゴメン」
私と手を繋いだままで、本田が申し訳なさそうに話す。
やっぱり、彼女がかなえちゃんなんだ……
私なんかより女の子らしくて、すごく可愛い人なのに。本当に、振っちゃうの……?
「いえ……本田さんは悪くないです。私が勝手に盛り上がってただけだったんですよね」
「……ゴメン。殴りたかったら好きなだけ殴っていいから――」
「もういいです……サヨナラ」
そう言って踵を返したかなえちゃんのなびく黒髪と一緒に、涙の雫がはじけたように見えたのは、きっと錯覚なんかじゃない。
なんだか、ものすごく悪いことをしちゃった気分……
私は坂を駆け上がる彼女の後ろ姿に、何度も“ごめんなさい”と心の中で呟いた。
「……これで、よかったの?」
「ああ。嫌われるくらいのことしないと、かなえちゃんだって次の恋にいけねーだろ?」
「そっか……本田がいいなら、いいけど」
少しだけ罪悪感が和らいだのと同時に、さりげなく繋いだままの手をほどこうとしたのだけど……
本田がぎゅっと握っているから、なかなか離すことができない。
「なぁ環」
「なに? っていうか、本田、早くこの手を――」
一旦離そうよ。そう言おうとしたのに。
「このままどっか遊びにいかね?」
そう言っていたずらっぽい笑みを浮かべた本田は、あろうことか私の指の隙間に自分の指を絡めて、恋人つなぎをしてきた。
「ちょっ――――!」