キスはワインセラーに隠れて
「……難しいね、恋愛って」
私はぽつりと呟いて、ポテトに手を伸ばす。
「だよなぁ。……けど俺、お前が女だったら迷わず付き合うのに」
……ふうん。私が女なら……いや、本当は女だけど……。
ってことは、ん?
「な、何言ってんだよ! そりゃ今日はこんなカッコだけど、俺はれっきとした――」
「わーかってるって。んなマジに受け取るなよ。つまり俺はやっぱり男とつるんでるのが好きで、だから女ができねーんだな」
うん、とひとり頷いて、苦笑する本田。
……ああびっくりした。今の、正体バレるのとはまた違う緊張感だよ……
アイスティーをごくごくと飲んで気持ちを落ち着かせていると、本田は腕時計を見てカタンと席を立った。
「悪い、俺これから地元の友達と会う約束してんだ」
「あ、うん。行ってらっしゃい。これは一緒に片づけとくからいいよ」
「サンキュ。じゃーまた明日、店でな」
……せわしないなぁ。でも、彼らしいといえば彼らしい。
本田はイイ奴だから、友達もいっぱいいるんだろうな。
「私はどうしよう……」
自動ドアを出て行く本田の背中を見送ってから、私はそうひとりごちた。
……せっかくのお休みだもん。
このまま家に帰るのはもったいない気がする。