キスはワインセラーに隠れて
8.ほろ酔いソムリエの微笑み
でも、このカッコで街中をうろうろするのはどうなんだろう。
同僚に会ったりしたら危険? でも、本田も気が付かなかったくらいだから、意外と別人に見えたりして……?
ファストフードのお店を出て、閉まった自動ドアのガラスに映った自分を眺める。
確かにいつものウエイター姿に見慣れてる人なら、私が庄野環だって、気づかないかも。
……よし。
ワンピースの裾を揺らして、私は足取りも軽く歩道を歩き出した。
どこに行こうかなぁ……
ファッション的にはあまり可愛いのは得意じゃないけど、雑貨なんかは大好きだから、最近あまり行けてなかったそういうお店を覗いてみてもいいし。
久しぶりに女子っぽい休日を過ごせそう、と気持ちを弾ませていた私。
けれど、それは本当につかの間のことだった。
「…………タマ?」
もしや、その声、その呼び方は、藤原さん……?
背後から掛けられた声に、びく、と反応してしまった自分のカラダの正直さを恨む。
無視して先行っちゃえばよかったのに、足は棒みたいに固まってしまって動かない。
どうしよう……本田とのことちゃんと話せば、こんな格好してる理由、納得してもらえるかな……?
徐々に近づいてきた靴音が、すぐ近くでぴたりと止んだことに気付くと、私は観念しておずおずと後ろを振り返った。
「こ……こんにちは」