キスはワインセラーに隠れて
「お前……」
それだけ言って、眉を顰めた藤原さん。
そ、そりゃ当然の反応ですよね……
なんの説明もなければ、女装癖のある男だったのかとか、いろいろ混乱するよね。
「あ、あの、これには深い理由が……」
私がそう言って、一から事情を話そうとした時だった。
「くそ……昼間から飲みすぎた。それにしても妄想が具現化するとは、相当ヤバいな……」
前髪をくしゃっとかきあげて、藤原さんがそう呟いた。
「あのう、藤原さん?」
「黙れ、俺の脳内が作り出した女版タマ」
……さっきからこの人は何を言ってるんだろ。
何故か自分にゲンコツしてるし、ちょっと様子がおかしいような……
「大丈夫……ですか?」
表情を窺うように言うと、初めて彼と会った時のような、ケモノみたいに鋭い瞳がこちらに向けられた。
「ここまでしても消えない……ってことは、お前、本物か?」
「本物?」
聞き返すと、いきなり頭の上に藤原さんの大きな手が乗せられた。
「さわれる。……やっぱ本物か」
「だから何ですか、その“本物”っていうの」
「……気にするな。ついでにさっきの俺の発言も忘れろ」
「さっきの? ……ああ、妄想の具現化がどうとか――」