キスはワインセラーに隠れて
「どうしよう……」
「ま、彼女が来ないことを祈るしかないだろうな。ただ……」
落ち込んで地面に視線を落とす私に、藤原さんが言う。
「なんかトラブったら、助けてやる。……お前のことだけな」
顔を上げると、藤原さんは珍しく優しげに微笑んでいた。
「藤原さん……ありがとうございます。でもなんで、俺だけ?」
「本田は自業自得だろ。少し痛い目見ればいいんだあんな奴。プリクラまで撮りやがって……」
「……プリクラ?」
確かに撮りましたけど。それは今関係のない話なのでは……?
突っ込みたかったけど、また鼻を摘まれたらいやなので、黙っておいた。
それから藤原さんは軽く咳払いをすると、いつもの俺様な調子に戻って言う。
「で。本田から解放されたお前は今ヒマなのか?」
「ええっと……はい、まぁ」
雑貨屋さん、行こうと思ってたけど。
「なら、酔い覚ましにコーヒー付き合え。今日のお前のカッコなら二人掛けソファでも不自然じゃないしな」
「べ、別の席探しますよ今日は!」
ムキになる私に声を上げて笑った藤原さん。
その無邪気な顔を見ていたら、何故か心臓がきゅうっと縮むのを感じた。
……なんだろこれ。
別に、本田みたいに手を繋いだわけでも、プリクラの機械の中で必要以上に接近したわけでもないのに。
ただ、笑顔を向けられただけで、胸が熱くなるなんて――――。