キスはワインセラーに隠れて
……そう。普通に接することのできていた今までが嘘みたいに、彼を目の前にすると、身体がカチンコチンになってしまうのだ。
そのくせ、心臓だけは全力疾走した後みたいにばくばくうるさくて……
今ではまともに目を合わすことすらできない。
「……環、そりゃもう完全に」
意味深に微笑む小羽を見る限り、やっぱりそうみたいだ。
認めたら、余計に仕事に支障が出そうだったから、気づかない振りをしていたかったけど……
「惚れてるね」
人差し指を立てて私の鼻のあたりに向けた小羽は、すごく単純で、わかりやすい答えをくれた。
「……そう、だよね、やっぱり」
認めたら少しは肩の荷が下りたような気持にもなったけど、認めたら認めたで、つらいものがある。
だって、あのお店では恋愛禁止。何より今の私は彼にとっては“男”だから、親しくなればなるほど、切ない思いをすることになりそうで……
「ねぇ、なおさら環の働いてるレストラン、行ってみたいんだけど」
「……! それはダメ!」
思わず席を立ってしまった私を、他のお客さんが何事かと振り返る。
愛想笑いをうかべて周りにぺこりと頭を下げ、小さくなりながら椅子に座り直す私に小羽が言う。
「……そんなに私に来てほしくないの?」
「そ、そういうわけじゃないんだけど……」