キスはワインセラーに隠れて
「あ、わかった。私に取られないか心配なんでしょー。ってことは、かなりのイケメン?」
イケメン、には、間違いないだろうな。
ぽん、と頭の中に浮かんだ彼は、意地悪そうな笑みを浮かべて私を“タマ”と呼ぶ。
……って、何この恥ずかしい妄想!
「……せ、性格、悪いけどね!」
「でも、そんな彼も好き、と」
「う……」
……図星だよ、小羽。
俺様っぽい発言は多いけど、結局は優しい藤原さんの、その“優しさ”を向けられた時、心を持ってかれちゃうんだよね……
否定できずにうつむく私を見て、小羽がふふっと笑う。
「なんか新鮮だなー、恋してる環」
「……面白がってるでしょ」
「まさか。で、イケメンで性格悪いのはわかったけど、その彼に関する他の情報は?」
「えっと……」
名前は藤原雄河。二十九歳。
身長おそらく180センチ強のうちのレストランのソムリエ。
趣味はワインの美味しいお店を探すこと。特技は犬並みの嗅覚で人の粗を探すこと。
コーヒーはブラック派で、カッコいい人しか似合わないであろう変な髪型してて……
自分の知る限りの藤原さん情報(うんちくでフラれるっていうのは本人の名誉のために黙っておいた)を小羽に伝えると、ふうん、と何度か頷いてから彼女が言う。
「そこまで知ってるってことは、結構仲良しなんじゃない、もう」
「あー、うん。……同僚としてはね」
そこが一番の問題。そして、この先もあそこで働く限り解決しないであろう、大きな障害。
ため息をついて時計を見ると、もうすぐここを出なきゃいけない時間。
「ゴメン小羽、また今度ゆっくり」
せわしくカフェをあとにした私は、店先の傘立てから自分の傘を引き抜くと、雨の中今日も彼のいる職場へと向かった。