キスはワインセラーに隠れて
「……まだ髪が濡れてるな」
そう言って近づいてきた須賀さんが、私の短い髪をつかんで優しく梳く。
「あ、あの……」
「……さっき藤原に聞いたが、お前、あの客の前で“女のカッコ”したらしいな。……馬鹿か、そんな危ないことして」
「……け、軽率でした」
ぼそぼそ言いながらも、須賀さんの顔が見れない。
だって、髪を撫でていた手が徐々に降りてきて、今は私の頬を、優しく包み込んでいるから……
「そういう……危なっかしいとことか。そもそも男のフリをしようだなんて無茶するところ……そっくりだ、本当に」
「そっくり……? 誰と、ですか?」
そこでやっと須賀さんの顔を見上げると、目を細めて微笑んだ彼。
その笑顔がなんだかとても寂しげに見えて、胸に小さく痛みが走った。
「須賀さん……?」
「……もしもお前が女であると周りに知れて、ここで働けなくなったとしたら……うちに来ればいい」
うちに来ればいい……? どういう意味……?
「それで、ずっと俺の側にいてくれ」
ドキン、と大きく胸が跳ね、同時に須賀さんの両手が私の背中にまわった。
これ、抱き締められてる――――!?
耳元に感じる須賀さんの鼓動が速くて、それにつられるように自分の胸も再びドキドキと騒ぎ始める。