キスはワインセラーに隠れて


「あ、あの……っ」


両手でそっとその身体を押し返すと、ゆるりと私から離れて行った須賀さん。


「……悪い。そろそろ厨房に戻る。お前も支度が済んだら戻れよ」

「はい……」


何だったんだろ、今の……

自分の身に起きたことの整理がつかないまま、白いコックコートが部屋から出て行くのを見送っていると、扉を開けこちらに背を向けたままの須賀さんが言った。



「……別に今すぐお前とどうこうなりたいってわけじゃない。ただ、俺の気持ちを知っておいてほしいと思っただけだ」



――パタン、と扉が閉まり、足音が遠ざかっていくのを聞きながら、須賀さんの放った言葉を反芻する。


ずっと俺の側にいてくれ。

俺の気持ちを知っておいてほしい。

そして、私を強く抱き締めた腕の感触……耳の奥に残る、須賀さんの心臓の音。


「きっと、そういう意味……なんだよね」


私には好きな人がいるから、その気持ちには応えられない。

でも、そもそも須賀さんの言葉をどこか素直に受け取れない自分がいる。

須賀さんが見てるのは、本当に私自身なのかな?

さっきの彼は、その目に私以外の人を映していたような気がしたけど……


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