キスはワインセラーに隠れて
そんなことを考えながら今度こそしっかり着替えを済ませてふうとため息をついていると、今度はノックもなしにいきなり部屋の扉が開いた。
「――あ、わり。誰もいないと思った」
びっくりした……本田か。
休憩終わりで、私物とかをロッカーにしまいに来たらしい。
「……環?」
ぼんやりその姿を見ていたら、いきなり顔を覗き込まれて私は一歩後ろに下がる。
「え、な、なに?」
「や、なんか元気なさそーだなと思って。俺の休憩中に店の方でなんかあった?」
……ありましたとも。しかも、かなり本田に関係することが。
かなえちゃんには、私たちが“最低”だって、本田にも伝えるように言われたけど……
「ううん、何も。……早く戻ろうぜ。今日はいつもより予約多いし!」
「おお、なんだ、元気じゃん」
元はと言えば、私が性別を偽っているのが一番の問題で、本田は悪くない。
最低なのは、私。
水をかぶったのも、偶然とはいえ私だけでよかった。
ホールへ戻る途中、隣を歩く本田の呑気な顔を見ながら、私はそう思い一人安堵していた。