キスはワインセラーに隠れて
「じゃあね、お疲れ様」
「はい、おやすみなさい」
香澄さんの乗る車のテールランプが夜の闇に消えていくのを見送ってから、私は重い足取りでアパートの階段を上る。
かなえちゃんのこともだけど、須賀さんからの思いがけない告白とか、なんか色々あって疲れたな……
階段を上がりきってふう、と息をつき、自転車の置いてある自分の部屋の前に何気なく視線を向けた時だった。
「……なん、で」
扉にもたれて立つ長身の男性の姿ははっきり顔が見えないのに、体型とか髪型とかで瞬時に誰だかわかってしまうのは、やっぱり彼が自分にとって、特別な存在だからなのかな。
私は香澄さんのお手伝いをしてからレストランを出たから、彼がここにいるのは時間的に不思議はないけど……
私の部屋に来る理由が、全く思い当たらない。
そんなことを考えて高鳴る胸のせいで、数メートル先の自分の部屋になかなか近づけずに立ち尽くしていると、向こうも私の存在に気づいて身体の向きを変えた。
「何そんなとこ突っ立ってんだよ……あまり俺を待たせるな、タマ」
「藤原さん……」
そう言われたって、あなたに見られてると体がロボットみたいになっちゃうんだってば。
ぎこちない動作で駆け寄っていくと、目を見れないからと彼の胸のあたりに固定していた視線の先に、ずいと紙袋を差し出された。
「……なんですかこれ。ワイン……?」
袋から頭を出しているボトルを見て、私は尋ねる。