キスはワインセラーに隠れて
2.同僚はクセ者揃い
更衣室を出たところで、今出勤してきたらしい同僚の一人――本田竜太(ほんだりゅうた)と顔を合わせた。
黒い短髪をツンツン立たせた髪型、ちょっと薄めの眉毛がヤンキー上がりっぽいけど、黒目がちの瞳は優しい印象で性格も人懐っこい。
歳も私と同じということもあって、一番に友達になってくれたヤツだ。
「おはよ、本田」
「おー、環。相変わらず早いなお前は」
「まぁね。仕事熱心だろ?」
ここで働くようになって、いきなり下の名前で呼んできたのは本田だけ。
女として接していたらちょっと馴れ馴れしいとか思うところかもしれないけど、男同士と考えれば“仲間”と認めてくれた気がして、逆に嬉しかった。
「……んなこと言って。暇なだけだろ? お互い寂しいなぁ」
そう言ってわざとらしく眉毛を下げる本田の口癖は“どっかにいい女いねーかな”だ。
私が女ってことを公にできるなら友達を紹介してあげてもいいけど、今の立場でそれは無理。
だから、愚痴に付き合ったり、励ましてあげることくらいしかできることがないのがちょと歯がゆいところ。
「そのうち現れるって! 運命の相手」
「はいはい。その根拠のない台詞は聞き飽きた」
いつも本田とはこんな軽いやり取りばかりしていて、男言葉も彼との会話で慣れた部分が大きい。
職種も同じウエイターだし、勤務時間が同じになることも多くて、一緒に居て一番楽な相手でもある。
「じゃ、さっさと着替えるかな」
「んー。じゃあ先行ってる」