キスはワインセラーに隠れて
「ああ。ヴィンテージがお前の生まれ年のな」
「生まれ年……」
私の生まれた年なんてなんで知ってるんだろ。年齢から逆算して?
「まぁ、あれだ……お前のこと、助けるって言っときながら、何もできなかったから」
「……お詫び、ってことですか?」
藤原さんはそれには答えず、ただ私に無理矢理袋の持ち手を握らせた。
もしかして、照れてる……?
表情を窺おうとして顔を上げると、それを確認する前に、鼻にいつもの痛みが。
「……いたっ! や、やめてください!」
私の鼻をむにっとつまんだ藤原さんの顔は、照れてるだなんてとんでもなかった。
いじめっ子みたいな憎たらしい笑みを浮かべていて、私も負けじと彼をキッとにらみつける。
「……お前さ」
「なんですか」
なかなかその先の言葉を継がない藤原さんとしばらく睨み合っていると、ふいっと視線をそらした彼。
そして同時に、私の鼻も解放された。
「帰る」
「え。ちょっと! 変なとこで話終わりにしないで下さい!」
優しくしたかと思えば鼻つまんで、勝手に不機嫌になるってどういうこと?
怒りたいのはこっちなんですけど!
スタスタと階段の方へ歩いて行ってしまう藤原さんの背中を見つめていると、通路の角で足を止めた彼が、こちらを振り返って言った。
「……須賀さんに、隙見せすぎ」