キスはワインセラーに隠れて
それだけ言い残した藤原さんは逃げるように角を曲がり、階段を足早に降りて行く靴音が聞こえた。
なんで急に須賀さんの名前が出てくるの? しかも、隙見せすぎって……
全く理解不能の言葉の解読は諦め、さっき受け取った紙袋からボトルを取り出してみた。
中身は赤ワインらしい緑のボトルのラベルには確かに、私の生まれ年が西暦で記してあった。
「美味しいのかな……せっかくなら、藤原さんのうんちく付きで飲みたいのに」
それに、一人で一本飲めるほどお酒強くないし。
今度、家に小羽でも呼んで一緒に飲むか……
そんなことを考えていると、小降りだった雨がサァァ、と勢いを増してきたのに気が付く。
藤原さん、傘持ってたっけ……
気になって一階まで降りてみたけど、アパートの前の通りにもう彼の姿はなかった。
あの俺様だもん、きっとどうにか濡れないで帰ってるよね?
本当は追いかけたいけど、傘を貸すためだけに追いかけるなんて、それこそ女っぽい行動な気がする。
私はしばらく悩んで結局自分の部屋へ戻ることにし、再び階段を上った。