キスはワインセラーに隠れて
翌日、やっぱり藤原さんの体調が気になると思って、出勤前にワインセラーを覗いてみることにした私。
制服に着替えてから地下へ続く階段を下り、木製の扉にそっと手を当てると、中から人の話し声が聞こえてきて、私は反射的に動きを止めた。
「……藤原、風邪か?」
「大したことありません。ワインの味もちゃんとわかります」
「それならいいが……で、話ってのはなんだ」
……この声。藤原さんと、須賀さん……?
須賀さんがここにいるなんて珍しいな。っていうか、藤原さんの風邪、やっぱり昨日の雨のせいで……?
聞きたいことは色々あるけれど、なんとなく二人の間に割って入ることが憚られて、私はそのまま扉に背を付け、二人の会話に耳を澄ませた。
「……須賀さんは」
「なんだ」
「アイツのこと、本気で……?」
……アイツ。って、誰のこと?
名前は出ていないのに、どくんと音を立てた私の心臓。
いやいや、自意識過剰だって。こんなタイミングよく、私の話をされるなんてことあるわけが……
「……庄野のことか」
「はい」
わぁぁ、やっぱり私のことだったー!
なおさら二人のいる室内に入っていくことができなくなって、けれどその場から立ち去ることもできず、ただ息を潜める。