キスはワインセラーに隠れて


激しく言い争っているわけではないけれど、その冷静なやりとりが逆に彼らの熱さを物語っている気がして、私の胸中は複雑だった。


須賀さんの気持ちにはもちろん応えられないけど。

だからって、藤原さんに正体は明かせない。

私、この先一体どうしたらいいんだろう……


扉に背中を預けたままで頭を悩ませていた私は、近づいてきた足音で我に返った。

やばい! 二人のうちのどちらかが、部屋から出てくる……!

気付いた時にはもう階段を上っている時間なんてなくて、ガチャリと開いた扉の影に咄嗟に身を隠した私。


扉が閉まって、出てきた相手に振り返られてしまえば完全にアウトだったけれど、その人物は特に立ち止まることもなく、階段を上りきって姿を消した。

足音の主が須賀さんだったか藤原さんだったかはわからないけれど、とりあえず私も今のうちに上へ……

そう思って、一歩踏み出した時だった。



「――――おい、野良猫タマ」



その呼び方は、もしかしなくても……

びくりと肩を震わせ、油を差し忘れた機械みたいにぐぎぎ、と首を動かして後ろを確認すると。


「……ちょっと、来い」


くいくい、と人差し指だけで私を手招きするのは、風邪のせいなのかちょっと鼻声の藤原さんだった。


マズい……“野良猫”って、きっと盗み聞きしていたことがばれてたんだ。

この状況で、何を言われる?

無表情の藤原さんからは、何の感情も読み取れないけれど――――。


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