キスはワインセラーに隠れて
11.テイスティング、してやる
ワインの品質を保つために、最低限の照明しかない薄暗い部屋の中。
先を歩く藤原さんの背中についていくと、背の高い棚と棚にはさまれた、狭い通路の途中で彼がぴたりと足を止める。
「……全部、聞いてたな?」
そう言うと、小さく靴を鳴らしてこちらを振り返った藤原さん。
ここはどう答えるべきなんだろう。否定したら信じてもらえる……?
「あの、なんのことでしょう……」
「見え透いた嘘はいい。お前がこの部屋の外にいるのは匂いでわかってたからな」
うう……やっぱり犬並みだ、この人の鼻。
そう言われたらもう認めるしかないじゃない。
「……聞いてまし、た」
「だよな。……あぁちなみに匂いでわかったというのは嘘だ。いくら俺でも壁の向こうにいる人間の匂いまでわかるわけないだろ」
な、なんですと――!?
「……で」
一度視線を床に落とした藤原さんが、改めて私の顔をじっと見る。
騙された、と悔しく思う暇もなく、心臓が激しく暴れ出す。
「二人の男に奪い合いされてる、今の気分は?」
……なんでそんな意地悪な聞き方をするんだろう。
ある意味藤原さんらしいけど、私はこう答えるしかない……
「お……お二人ともどうかしてます。俺、男なんですよ……?」