キスはワインセラーに隠れて
冗談ぽく笑いながら言ったけれど、胸が痛くてたまらなかった。
ここで働き始めてからずっと同じ嘘をつき続けて、その度に罪悪感を感じてはいたけれど、好きな人を目の前にしてこんな風に改めて言うのは、やっぱり、特別な痛みだ。
さっき彼が須賀さんに語った、私への想いを知ってしまったから、なおさら。
「俺も最初はそう思った。どうかしてるってな、……でも」
ため息交じりに呟く藤原さんが、ゆっくりこちらに近付いてくる。
目を合わせたら、ダメだ。
きっと、嘘がつけなくなってしまう。
そう思って彼の胸元で金色に輝くブドウのバッジばかり見つめていたら、後ろはワインボトルの並んだ棚、そしてそこに両手を付いた藤原さんの身体に囲われて、逃げ場がなくなってしまった。
「……こっち向け」
藤原さんは片手を棚から離して、ぐいと私の顎を持ち上げる。
必然的に彼の鋭い瞳を見つめなければならなくなり、私は観念したように、ごくりと喉を鳴らした。
「美味そうなワインを目の前にして、外観と香りしか楽しまないなんて勿体ないだろ。たとえそれが禁断のワインだとしても、俺は味を知りたい。……自分の五感を駆使してな」
禁断の、ワインの味……
それって、まさか――――。
「――テイスティング、してやる」