キスはワインセラーに隠れて
唇を啄まれ、力の抜けた唇の隙間から舌を絡め取られた瞬間、漏れてしまった“女の”声。
けれど藤原さんはそれに気づいているのかいないのか、特に動きを止めることなく、何度も私の舌を吸い上げてはリップ音を辺りに響かせた。
私の思考は次第にトロンとしてきて、ワインであるはずの私の方こそ、彼のキスに酔わされているようで。
「ふ……じわら、さ……っ」
初めて身体を重ねた相手にだって、こんな声は聞かせなかった。
まるで、私が私じゃないみたい。
それともこれが、本当の私――――?
「……お前」
唇を離して、こぼれる熱い吐息と一緒に藤原さんが言う。
その目は、私の中の何かを見極めようとしているように細められていて、私は急に我に返った。
「……っ、もう、行きます! 仕事……っ」
力いっぱい藤原さんの身体を押せば、今度はあっさりと私の前から退いた彼。
女だって……ばれた。きっと。
ううん、絶対に――――
私は彼と視線を合わせないようにしながら、小走りで出入口の扉に向かう。
「待てって……環」
藤原さん……初めて、環って呼んでくれた。
でも、今は振り向けないよ……
後ろ髪をひかれるような思いを振り切るようにして、私はバタンと扉を閉めた。