キスはワインセラーに隠れて
「……彼、クールそうに見えて意外とわかりやすいわよねぇ」
か、香澄さん、エスパーですか!?
藤原さんのことといい、須賀さんのことまで……!
私が目を見開いているうちに、どこか楽しそうな香澄さんは仕事に戻って行ってしまった。
同じ女だからなのか、夫であるオーナーとは違って私の味方をしてくれる香澄さんにはいつも勇気づけられる。
でも、藤原さんの家まで行くって言うのは、さすがに……
「――庄野。さっきから何をぼーっと突っ立ってる」
「うわぁ!」
び、びっくりした……
おおげさな声を出した私に、須賀さんが顔をしかめる。
そして、私の傍らにある冷蔵庫から卵をいくつか取り出すと、去り際にこちらを振り返って呟いた。
「藤原が休みで仕事が手につかない……か?」
「そ、そんなこと……っ! ないです! 全く! いなくてせいせいします!」
……ちょっと、不自然に否定しすぎた……?
それでも一度言ったことを引っ込めるわけにもいかないので、平静を保って須賀さんをまっすぐに見つめ返すと。
「……あとで話がある。仕事終わりに店の裏で待っててくれ」
須賀さんは真面目な顔でそう言って、私の答えを聞く前にこちらに背を向けてしまった。
……仕事終わりに、話。一体なんだろう。
それに、須賀さんのことを待っていたら、藤原さんのところへは行けない。
うう、また頭を悩ませることが増えちゃったよ……
とりあえず、仕事だけはちゃんとやらなきゃ。
私は頬をぱちんと叩いて気合を入れ直し、厨房からフロアへ出て行った。