キスはワインセラーに隠れて


最近のplaisirは、私が入りたての頃よりもお客さんの数が増えているようだ。

覚えることの多かった最初より、要領よく仕事のこなせるようになった今の方が、忙しく感じる。



「お待たせいたしました。本日の魚料理、スズキのポワレでございます」



中央にお魚、その上にカラフルなパプリカの角切りが散らばっていて、余白にはソースが不規則な水玉模様をつくっているその芸術的なお皿を見て、お客さんは「わぁ」と声を上げる。

一枚のお皿をキャンバスみたいに使う須賀さんってやっぱりすごいな……

そう思いながら軽く頭を下げ、担当のテーブルから離れる途中のこと。



「――シェフを呼んで頂戴。この料理にクレームがあるわ」



少し離れた場所からそんな発言が聞こえて、思わず声のした方を振り向いた。


「か……かしこまりました。少々お待ちください」


動揺した様子で厨房に下がっていくのは、同僚のウエイター。

そして彼に“シェフを呼んで”と言ったのは、三十代くらいのとてもキレイな――

そして、私と同じような、丸みを帯びたショートヘアが印象的な女性だった。


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