キスはワインセラーに隠れて


程なくして厨房から出てきたのは、須賀さんとオーナー。

二人はさっきの女性がひとりで席に着くテーブルに向かい、並んで頭を下げた。

あまりジロジロ見てるものでもないよね……と仕事に戻る途中、たまたますれ違った本田がこそっと私の耳元で言う。


「……誰だ? あの人」

「さぁ……」


再びその女性のテーブルに視線を向けると、“クレーム”という単語を使っていたわりに、なんだか親しげにオーナーたちと会話してるようだ。


何事もなければいいけど、と厨房の方へ下がると「庄野と本田、休憩入っていいぞ」とホールのチーフに指示された。


「行こうぜ環。メシだメシ」

「うん」


前もってキッチンスタッフにお願いしておけばまかないを作ってもらうこともできるけど、今日の私たちはお互いにコンビニのご飯だった。

更衣室のロッカーから自分たちのバッグとコンビニ袋を持ってスタッフルームへ向かうと、無造作に置かれた長机とパイプ椅子を整え、本田と並んで座った。


「環、これ知ってるか? ばななっしージュース」


本田の持ってた袋から登場したペットボトルは、ラベルの全面にあのキモかわキャラがデザインされてて、思わず私は身を乗り出す。


「え! 知らない! どんな味?」


ばななっしー情報は全部チェックしてるつもりだったのに、新商品の発売を見逃すとは不覚……!


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