キスはワインセラーに隠れて
「何やってんだよ……」
苦笑しながら私は自分のリュックを探り、その手がポケットティッシュの感触をつかんだ時だった。
部屋の扉が二度ノックされ、ガチャリと開いたそこから須賀さんが顔を出した。
「――休憩中に悪い。この部屋、少し借りられるか?」
私と本田は顔を見合わせ、机に出したものを慌てて片づけながら言う。
「ど、どうぞ」
「俺らはどこでメシ食えばいいすか?」
「それなら厨房の隅を空けさせてきた。少し狭いが我慢してくれ」
はい、と返事をしてスタッフルームを去ろうとすると、本田が先に通路に出たのを見計らったように、須賀さんが私を呼びとめた。
「庄野……今日の約束なんだが、また日を改めさせてくれ」
「わ……かり、ました」
……須賀さん、なんだか切羽詰まってるみたい。
もしかして、さっきの“クレーム”の件がこじれて……?
そんな憶測をしながら私も部屋を出ると、通路の壁に沿って立っていた女性の姿に私は目を見開く。
「ごめんなさい、私のせいでゆっくり休憩できなかったみたいで……」
この人、さっきの……!
ってことはやっぱり、あの場では彼女の気がおさまらずに、別室で話をすることに……?
内心はらはらする私にぺこりと頭を下げると、女性は須賀さんの待つ部屋の中へと入っていった。