キスはワインセラーに隠れて


「ここ……だ、絶対」


香澄さんに教えてもらった道順通りに自転車を走らせ、目の前に現れたマンションを見て私は確信した。

なんとなく、お洒落なとこに住んでるんだろうなという気はしてたけど、やっぱり。

打ちっぱなしのコンクリートを外壁に使った都会的な外観は、いかにも“藤原さんの住みか”って感じ。


エレベーターで六階まで上がって、“603”とかかれたプレートの前で足を止める。

ここへ来る前に買い込んだものが入ったビニールを握る手にぎゅっと力をこめると、反対の手をインターホンに添えて、深呼吸。


うう、緊張する……でも、ここまで来たんだから、逃げてたまるか。

――ピンポーン。

静かな通路に軽やかな音が響くと、胸のドキドキがさらに加速してうるさい。

そのまま、すごく長く感じられる数十秒が過ぎると、目の前の扉が静かに開いた。



「……お前、なんで」

「あ、あの……おうちは、香澄さんに聞いて、その……」


私は言いながら、目の前の藤原さんを直視できずにぱっと目を逸らした。

――やばい。

いつもよりも乱れた髪の感じとか、ラフなスウェットにTシャツっていうやる気のない感じとか……

今、こんなこと思うの絶対不謹慎だけど、カッコよすぎて……!


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