光のもとでⅡ
「佐野くん、どうかした?」
 そっと話しかけると、
「御園生、体調悪い?」
 佐野くんの目は不安そうに揺れていた。
 考えてみたら、「玉入れは見学?」と訊かれたとき、「うん」と答えただけで理由まで話してはいなかった。
 でも、佐野くんのことだ。今までの経緯から、人との接触を避けたくて見学していることには気づいているだろう。
 佐野くんがわからないのは、どの程度痛みが出ているのか。どの程度接触を恐れているのか。たぶんそんなところ。
 佐野くんはダンスのパートナーだし話しておくにこしたことはない。
 ただ、どう話したらいいかな、と少しだけ考える。
「本調子ではない」と話すことがマイナスにならない話し方とは、どんな話し方だろう。
 現在の身体の状況と気持ちを正直に話すことで不安は払拭できるだろうか。
 私は佐野くんの方を向いて座り直し、佐野くんの目を見てから口を開いた。
「今日、お天気が悪いでしょう? 私の痛み、低気圧とは相性が悪いの。昨夜から痛みが出ているのだけど、そこまでひどく痛みだすことはないと思う。ただ、うっかり人とぶつかって、それが引き金になったらやだな、と思って……。組代表のワルツには絶対出たいから、玉入れは見学」
 佐野くんは相槌を打つでもなく、じっと私の目を見ていた。その視線を逸らさずにいると、
「ワルツのとき、ホールドするのは平気?」
「もちろん。問題ないよ」
 佐野くんはようやく表情を緩め、「わかった」と言ってくれた。
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