光のもとでⅡ
「……あんた、根っからの負けず嫌い?」
 飛翔くんの呆れた顔に見下ろされるのは慣れてきた。
「いけない?」
 座った状態で見上げると、飛翔くんは「いや……」と言いながら谷崎さんに向き直った。
「おまえ、ケンカ売る相手間違えたんじゃねーの? この女、昨日のダンス対決もこんな調子で踊ってたと思うけど?」
 谷崎さんは何度か瞬きをして、クスリと苦い笑いを零した。さらにはクスクスと笑い出し、
「本当……すっごい見当違いだった。華奢で可憐で病弱で、吹けば飛ぶくらいのイメージだったのに、何この人……。負けず嫌いの塊じゃない」
 すごいことを言われている気はする。でも、谷崎さんと出逢ってから、今このタイミングまで笑っているところなんて一度も見たことがなかったから、何を言われていてもいいかな、と思ってしまう。
「御園生、少しくらい反論すれば?」
 ふと気づけば佐野くんも呆れ顔に転じていた。
「でも、負けず嫌いなのは本当だし、悔しいものは悔しいから」
「はいはい」
「先輩、そろそろ着替えないと」
 谷崎さんに言われ時計を見る。と、集合の五分前だった。
 かばんから衣装を取り出しカーテンの陰で着替える。
 とても簡易的なドレスだけれど、オーガンジーで作られたドレスの中にはふわっふわのペチコートをはくため相応のボリュームが出る。さらには、足元まできれいに隠してくれる優れもの。
「よしっ、と。誰にも怪我してるようには見えないよね?」
 その場でクルリと回って見せ、三人の同意を得る。
「御園生、手がおかしいなら湿布は貼っておこう? 手なら飛翔がテーピングできるから」
「うーん……」
 私はさっき違和感を覚えた右手に視線を移す。
 外傷はない。たぶん筋を違えちゃったか体重をかけすぎちゃっただけだと思うのだけど……。
「時間も時間だし右手は――」
「だーーーっ、とっととグローブ取れっ」
「は、はいっ、ごめんなさいっ」
 謝った勢いのままグローブを外す。と、飛翔くんは谷崎さんが持っていた湿布を取り上げ貼る準備万端で目の前に仁王立ちしていた。
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