光のもとでⅡ
 天気予報では午後から雨という話だったけれど、それが午前にずれこんだからなのか、今は雨も上がっている。
 さすがに星は見えないけれど、こんなふうにドレスアップしてツカサと星空を見ることができたなら、どれほどロマンチックなことか……。
 でも、どれほど見つめても、ひとつの星も見つけることはできなかった。
「空がどうかした?」
「ううん、星が見えたらいいのに、って思っただけ」
「さすがに今日は無理だろ」
「うん、そうみたい。残念……」
「星が好きなら、今度よく見える場所に連れて行くけど……」
「嬉しい! どこ?」
「何箇所かある」
「あ、ひとつはブライトネスパレス? あそこ、ステラハウスが森の中にできたものね」
「ステラハウスなんてできたんだ? 知らなかった」
「じゃ、いつか一緒に行けたらいいね。……でも、ブライトネスパレスじゃなかったらどこ?」
「緑山(りょくざん)って藤宮所有の山がある。そこから見る星空はきれいだし、夏は森の中を流れる川に納涼床を作るからかなり涼しいしくつろげる」
「わぁ……楽しみ。じゃ、夏かな?」
「納涼床は夏だけど、山には別荘が建ってるから冬でも問題ない」
「じゃぁ、楽しみにしてるね。あとは?」
「マンションの屋上から見る星空も悪くない。藤倉もまあまあだけど、支倉のマンションからのほうがよりきれい。しかも、兄さんが一時はまってたから天体観測に使うアイテムは粗方揃ってる」
「支倉かぁ……。再来年にはツカサが住む町だね」
「別に、車で三十分の距離だから翠だっていつでも来られる」
「そうだね……」
 同意する言葉を返したけれど、私には車で三十分という距離はとても遠くに思えた。
 もし、車を運転することができたらなんてことのない距離に思えるのだろうか……。
 なんとなしに首に手を添えると、
「気にするな」
 言われて、指がIVHの痕をなぞっていることに気づく。
「翠が気にするほど目立ってない」
「そう、かな……」
「そう。だから気にするな」
 でもね、女の子なの。だから、やっぱり肌を出す洋服を着るときには気になっちゃうんだよ。
 たぶん、男の人にはわからない感情だろう。
 あ、去年美鳥さんにいただいたコンシーラーを使えば良かったのかな……?
 もう少し早く気づきたかったなどと考えていると、テラスの中央階段入り口にたどり着いた。
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