光のもとでⅡ
「翠」
少し離れたところで待っていてくれたツカサに呼ばれ、
「おーおー、怖いナイトの仏頂面」
風間先輩は相変わらずツカサをからかおうと全力で立ち向かう。けれど、それにツカサが応じることはないのだ。そして、それもわかっていて仕掛けるのだから物好きだな、と思う。
ある意味唯兄といい勝負かもしれない。そんなことを思いつつ、
「途中ですけど、お先に失礼します」
そう言って桜林館をあとにした。
桜林館を出た途端にツカサに抱っこされ、
「つ、ツカサっ!? 大丈夫だよ? 私、歩けるっ。荷物もいっぱいだし重いでしょうっ!?」
実際、大荷物を運んでいるような状態で、「抱っこされている」と見えるのかすら疑わしい。
どれだけ大丈夫だと言ってもツカサは取り合ってくれない。
でも、昇降口へ行けば靴に履き替えるときに下ろしてもらえるだろう。そしたら、次は抱えられないように注意しよう……。
昇降口で下ろしてもらい靴に履き替えていると、私よりも先に靴を履き替えたツカサはスタスタと外へ出て行った。
「あ、れ……?」
警戒していただけに、想像とまるきり違う行動に思考が一時停止する。
バンッ――。
外から聞こえてきた音は聞き覚えがあるけれど、咄嗟に「なんの音」と答えるのは難しい。
ゆっくりと出口へ向かうと、戻ってきたツカサに問答無用で抱き上げられた。
「ツカサ、荷物は……?」
「車」
え? 車……? ――っ、もしかして楓先生っ!?
前方に視線をやると、そこには黒塗りの車が停まっていた。
こういう車は以前にも見たことがあるけれど、後部座席の前でドアを開けて立っている人は見たことのない人だ。
疑問を向けるようにツカサを見ると、
「まさか、この足で歩いて帰るつもりだったとは言わないよな?」
「えぇと……取り立てて何も考えていませんでした」
「そんなことだろうと思った。でも、次からはせめて御園生さんに連絡入れるとかそのくらいのことは算段に入れてもらいたいんだけど。もし反論するなら御園生さんに状況話して御園生さんからも説得してもらう」
「……いえ、反論など」
そんな余地はないじゃないか、と心の中で文句を言うに止める。
「司様、女性に対し、そのように攻め立てるものではございませんよ」
車の脇に立つ人はクスクスと笑い、司に臆することなく諌めるような言葉を発す。
「高遠さんは知らないでしょうけど、翠は同じことを何度言って聞かせても、たったひとつのことすら、習得できない頭の持ち主なので」
あちこちに重きを置かれた文章が耳に痛い。
耳を押さえたい心境に駆られつつ、「高遠さん」という名前を過去の記憶から漁る。
この名前はどこかで聞いたことがある気がするのだけど……。あ――。
「ツカサの警護班の方ですか?」
「申し遅れました。司様の護衛を務める高遠省吾(たかとおしょうご)と申します。以後お見知りおきを」
名刺を差し出され受け取ると、
「そういうの、車に乗ってからにしてくれない?」
文句を言われ、高遠さんと声を揃えて謝った。
少し離れたところで待っていてくれたツカサに呼ばれ、
「おーおー、怖いナイトの仏頂面」
風間先輩は相変わらずツカサをからかおうと全力で立ち向かう。けれど、それにツカサが応じることはないのだ。そして、それもわかっていて仕掛けるのだから物好きだな、と思う。
ある意味唯兄といい勝負かもしれない。そんなことを思いつつ、
「途中ですけど、お先に失礼します」
そう言って桜林館をあとにした。
桜林館を出た途端にツカサに抱っこされ、
「つ、ツカサっ!? 大丈夫だよ? 私、歩けるっ。荷物もいっぱいだし重いでしょうっ!?」
実際、大荷物を運んでいるような状態で、「抱っこされている」と見えるのかすら疑わしい。
どれだけ大丈夫だと言ってもツカサは取り合ってくれない。
でも、昇降口へ行けば靴に履き替えるときに下ろしてもらえるだろう。そしたら、次は抱えられないように注意しよう……。
昇降口で下ろしてもらい靴に履き替えていると、私よりも先に靴を履き替えたツカサはスタスタと外へ出て行った。
「あ、れ……?」
警戒していただけに、想像とまるきり違う行動に思考が一時停止する。
バンッ――。
外から聞こえてきた音は聞き覚えがあるけれど、咄嗟に「なんの音」と答えるのは難しい。
ゆっくりと出口へ向かうと、戻ってきたツカサに問答無用で抱き上げられた。
「ツカサ、荷物は……?」
「車」
え? 車……? ――っ、もしかして楓先生っ!?
前方に視線をやると、そこには黒塗りの車が停まっていた。
こういう車は以前にも見たことがあるけれど、後部座席の前でドアを開けて立っている人は見たことのない人だ。
疑問を向けるようにツカサを見ると、
「まさか、この足で歩いて帰るつもりだったとは言わないよな?」
「えぇと……取り立てて何も考えていませんでした」
「そんなことだろうと思った。でも、次からはせめて御園生さんに連絡入れるとかそのくらいのことは算段に入れてもらいたいんだけど。もし反論するなら御園生さんに状況話して御園生さんからも説得してもらう」
「……いえ、反論など」
そんな余地はないじゃないか、と心の中で文句を言うに止める。
「司様、女性に対し、そのように攻め立てるものではございませんよ」
車の脇に立つ人はクスクスと笑い、司に臆することなく諌めるような言葉を発す。
「高遠さんは知らないでしょうけど、翠は同じことを何度言って聞かせても、たったひとつのことすら、習得できない頭の持ち主なので」
あちこちに重きを置かれた文章が耳に痛い。
耳を押さえたい心境に駆られつつ、「高遠さん」という名前を過去の記憶から漁る。
この名前はどこかで聞いたことがある気がするのだけど……。あ――。
「ツカサの警護班の方ですか?」
「申し遅れました。司様の護衛を務める高遠省吾(たかとおしょうご)と申します。以後お見知りおきを」
名刺を差し出され受け取ると、
「そういうの、車に乗ってからにしてくれない?」
文句を言われ、高遠さんと声を揃えて謝った。