光のもとでⅡ
藤山デート

Side 翠葉 01話

 昨夜、ツカサが帰ってしばらくして、一通のメールが届いた。
 ――「松葉杖は右手に負担かかるから却下で。明日も明後日も車椅子移動。芸大がそれで移動可能なのか、きちんと確認をとるように」。
 読んで納得してしまう。
 松葉杖をつくのに手首を捻る動作はないけれど、通常なら足にかかる体重を手と腕で補うのだから、負担がかかることに代わりはない。「負荷はかけるな」という昇さんの言いつけを守るなら、やめておいたほうが良いのだろう。
 でも、車椅子……。
「車椅子かぁ……」
 なんだかとっても大げさだ……。
 足をかばわず歩けるか、と尋ねられたらそれは無理だけど、車椅子を使うほど重症かと問われると、それはそれで頭を抱えて唸りたくなってしまう。せめて手が使えたらこんなことにはならなかったのに。
「車椅子、かぁ~……」
 私はうな垂れつつもメールアプリを起動し、怪我をした旨を伝えるべくメールの作成を始めた。
 仙波先生へ送るとすぐに携帯が鳴り出し、
『怪我って足だけ? 手はっ!?』
 いつもは落ち着いた先生の慌てた様子に驚き気おされる。
「あ……えぇと、主な怪我は足なのですが、右手もちょっと……。でも、大したことはなくて……」
『それ、ピアノが弾ける域の問題ですか?』
「……スミマセン。痛みが引くまではピアノの練習を控えるように言われてしまいました」
『……御園生さん、何においても手を守れ、とまでは言いませんが、せめて怪我を回避する程度の気遣いはしましょうか』
「はい……以後、気をつけます」
 お小言が終わると、先生は大学がバリアフリーであることを教えてくれた。
 その後、支倉の駅で待ち合わせをしていた柊ちゃんに事情を話し、待ち合わせ場所を大学正門前に変更してもらうと、私は疲労を訴える身体をすぐさまベッドへ横たえた。
 明日は朝寝坊をしてしまおう……。
 そんなことを考えているうちに、私は眠りに落ちたのだ。
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