光のもとでⅡ
「じゃ、今考えて? 好き? 嫌い?」
「……あのさ、そこまで期待に満ちた目で訊かれて嫌いって言える人間がいるなら会ってみたいんだけど……」
「え? 強要しているつもりはないのよ?」
真面目に返事をすると、ツカサは少し表情を崩して笑った。
その笑みが思いのほかどストライクで頬が熱を持つ。
咄嗟に前を向いてしまったけれど、そんな行動を取ってしまった自分に激しく後悔。
赤面を見られてもいいからもう少し見ていたかった。
たぶん、再度振り返ったところであの笑顔は幻でしかなく、今は無表情に戻ってしまっているだろう。
確認するだけ無駄なこととはわかっていても、振り返らずにはいられない。
まだ熱い頬に右手を添えて振り返ると、ツカサは少し遠くを見ていた。
何かに思いを馳せるような、そんな目で金木犀と空の境目を眺める様は、いつかの秋斗さんを思い出させる。
「金木犀の香りは好きでも嫌いでもない。ただ、懐かしい……かな」
「懐かしい……?」
確かに、金木犀の香りはノスタルジックな印象を受ける。でも、ツカサは明らかに違うことを感じている気がした。
「ばあさんが花好きで、金木犀が咲く頃にはこの奥にあるガーデンスペースで、よくティータイムを過ごしてた」
車椅子を向けられた先には四方を金木犀に囲まれた空間があり、その中央には洒落たガーデンテーブルと四つの椅子が備わっていた。
「奥にこんなスペースがあるなんて知らなかった」
「「まるで隠れ家――」」
ふたり声が重なりクスリと笑う。
「翠は桂花茶って知ってる?」
「けいか、ちゃ……?」
「そう、ジャスミンティーみたいなもの。緑茶に金木犀の花の香りを移したものが一般的だけど、紅茶でも作れるからルイボスティーでも作れると思う。お茶が二に対して、金木犀の花が一のブレンド。金木犀が咲く季節はここでよくお茶を作って飲んだんだ」
初めて聞くお茶に好奇心を煽られていると、
「来年、ここでお茶にする?」
「するっ!」
「翠は紅葉祭準備で忙しいかもしれないけど、合間を縫ってここでお茶にしよう」
「絶対よ? 絶対だからねっ?」
指切りをせがむように右手を差し出すと、ツカサはきっちりと小指を絡め、指きりげんまんをしてくれた。
「……あのさ、そこまで期待に満ちた目で訊かれて嫌いって言える人間がいるなら会ってみたいんだけど……」
「え? 強要しているつもりはないのよ?」
真面目に返事をすると、ツカサは少し表情を崩して笑った。
その笑みが思いのほかどストライクで頬が熱を持つ。
咄嗟に前を向いてしまったけれど、そんな行動を取ってしまった自分に激しく後悔。
赤面を見られてもいいからもう少し見ていたかった。
たぶん、再度振り返ったところであの笑顔は幻でしかなく、今は無表情に戻ってしまっているだろう。
確認するだけ無駄なこととはわかっていても、振り返らずにはいられない。
まだ熱い頬に右手を添えて振り返ると、ツカサは少し遠くを見ていた。
何かに思いを馳せるような、そんな目で金木犀と空の境目を眺める様は、いつかの秋斗さんを思い出させる。
「金木犀の香りは好きでも嫌いでもない。ただ、懐かしい……かな」
「懐かしい……?」
確かに、金木犀の香りはノスタルジックな印象を受ける。でも、ツカサは明らかに違うことを感じている気がした。
「ばあさんが花好きで、金木犀が咲く頃にはこの奥にあるガーデンスペースで、よくティータイムを過ごしてた」
車椅子を向けられた先には四方を金木犀に囲まれた空間があり、その中央には洒落たガーデンテーブルと四つの椅子が備わっていた。
「奥にこんなスペースがあるなんて知らなかった」
「「まるで隠れ家――」」
ふたり声が重なりクスリと笑う。
「翠は桂花茶って知ってる?」
「けいか、ちゃ……?」
「そう、ジャスミンティーみたいなもの。緑茶に金木犀の花の香りを移したものが一般的だけど、紅茶でも作れるからルイボスティーでも作れると思う。お茶が二に対して、金木犀の花が一のブレンド。金木犀が咲く季節はここでよくお茶を作って飲んだんだ」
初めて聞くお茶に好奇心を煽られていると、
「来年、ここでお茶にする?」
「するっ!」
「翠は紅葉祭準備で忙しいかもしれないけど、合間を縫ってここでお茶にしよう」
「絶対よ? 絶対だからねっ?」
指切りをせがむように右手を差し出すと、ツカサはきっちりと小指を絡め、指きりげんまんをしてくれた。