光のもとでⅡ
 今の会話、聞き流しちゃだめな気がする。もっと言うなら、細心の注意を払うべき内容じゃなかっただろうか。
「取り扱い注意」を意識しながら、
「今日は思ったことを全部話してくれるのね?」
 うかがうようにゆっくり話しかける。と、
「そう……?」
「うん。いつもなら、隠されて教えてもらえないようなことまで聞かせてもらえてる気分」
 気をつけていても、嬉しい気持ちが滲み出てしまってつい顔がにやける。と、
「翠こそ……昨日から、なんかやけに近く感じるんだけど」
「近く……?」
 不思議に思ってツカサの顔をまじまじと見つめると、
「ボディータッチが多いというかなんというか……」
 言われたことの衝撃が大きすぎて、顔を背けることが精一杯だった。
 がんばって「そんなことないもの」と否定したけれど、思い当たる節がそこかしこにあって決まりが悪い。
 ツカサは「昨日から」と言うけれど、私の心当たり的にはもう少し前からだ。
 指折り数えられそうなあれこれに、「わーわーわーっっっ」と頭の中で大絶叫。あえて指摘されるとたまらなく恥ずかしい。
「あると思うんだけど……」
 追い討ちのような言葉に逃げ場を失うも、ずっと顔を背けているのもどうかと思うし、ここ数日考えていたことを話すいい機会かもしれない、とツカサの方へ視線を戻す。と、ツカサは私を見つめたままだった。
 その、真っ直ぐすぎる視線に捕まりながら、
「色々思うところがあって――」
 どうしよう。蚊のなくような声しか出てこない……。
「思うところって……?」
 静かに話すツカサの声がものすごく大きく聞こえる始末だ。
 それにしても、どこから話そう……。
 自分の中で明確になっているわけではないものを、どうしたら人に説明できるのか――。
 でも、話すならここから、かな……。
「触れ合うことの大切さを少し理解したというか……」
「それ、どこら辺に何を感じてどう理解したのかが知りたいんだけど」
 要点が明確すぎる質問は、同じくらい明確で的確な返答を求められている気がしてちょっと胃が痛くなります。
 どこら辺に何を感じてどう理解したのか、か……。
 難しい……。難しいなぁ……。
「全部話さなくちゃだめ……?」
「つい先日、『話して分かり合おう』って結論に至らなかったっけ?」
 至りました……。
 さっきから逃げ道を封じられてばかり……。
 どんなふうに説明したら理解してもらえるだろう。
 考え方や感じ方は人それぞれ違う。でも、ツカサには同じものを感じてほしいと思ったり、理解してほしいと思ってしまう。
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