光のもとでⅡ
少し窓を開けて強引に頬の熱を冷ますと、
「私が大学にいる間、ツカサはどこにいるの……?」
「支倉のマンション」
「支倉のマンションって……ツカサが大学二年生から住む予定の?」
「そう」
「お部屋、入れるの?」
「最上階はうちのセカンドハウス」
その言葉に納得するも、新たな疑問が浮上する。
芸大と支倉キャンパスの最寄り駅は同じだけれど、路線バスは違ったはず。そこからすると、方角が異なるのではないだろうか。
「私、土地勘が乏しいのだけど、支倉キャンパスと芸大って近いの?」
「道が空いていれば、車で十分くらいだと思う」
「そんなに近いの? でも、バスの路線は別よね……?」
訊くと同時、信号で停まったツカサはカーナビの縮尺を変えて見せてくれた。
「間に川があるけど直線距離的にはそんなに離れてない。ただ、大学へ行く学生と病院へ行く患者が同じバスに乗って、さらには芸大に通う学生まで同じバスだと輸送力に限界があるから、路線を分けたって話を聞いたことがある」
言われて妙に納得してしまった。
「持ってきた本が読み終われば書庫の本を読むから、こっちのことは気にせず楽しんでくればいい」
「ありがとう……」
ツカサの荷物が置いてある後部座席に目をやると、大きなトートバッグの中に本が見えた。
A4サイズの本が二冊とB5サイズのハードカバーの本が一冊、ソフトカバーの本が二冊、文庫本が三冊に辞書らしき本が一冊。
私が大学にいるのは長くても半日。それはツカサも知っているはずだけど、この冊数……。
読み終わったら書庫の本って、どれほど読むのが速いのか。
そんなことを考えながら視線を前へ戻すと、国道沿いの歩道を歩く人の姿が目についた。
たぶん、みんな芸大へ向かっているのだろう。
もう近いのかな、と思ったら、カーナビから「目的地に着きました」という音声が流れてきた。
正面の信号脇には「倉敷芸術大学・短期大学入り口」のプレート。
数台前を走っていたバスがロータリーに停まると、次から次へと人が降りてくる。
人が降りるたびに揺れる車体を見ながら、いったい何人の人が乗車していたのか、と思う。
「すごい人……。柊ちゃん大丈夫かな」
「どうして?」
「柊ちゃん、私よりも身長が低いの。たぶん一四五センチもないんじゃないかな? あんな人ごみの中に入ったら埋もれちゃう」
「ふーん……」
ツカサはさほど関心なさそうに相槌を打つと、バスの後方に車を停車させた。
素早く運転席から降りると、「なんで……」という声が外から聞こえてくる。
誰に向かって何を言っているのか、ツカサが見ている方向に視線をやると、そこにはにっこりと笑った秋斗さんが立っていた。
「え……どうして?」
秋斗さんは颯爽とやってきてはトランクから車椅子を取り出し組み立てる。そして、助手席のドアを開け私に向かって手を差し伸べた。
状況が読めずにフリーズしていると、
「ほら、早く降りないと。後続車にクラクション鳴らされちゃうよ」
そんなふうに急かされたら手を借りるしかない。
何がなんだかわからないままに車椅子に腰掛けると、
「ほら運転手さん、とっとと車出して」
「っ……」
ツカサは不本意そうに運転席に収まり、不愉快極まりない表情でロータリーをあとにした。
「私が大学にいる間、ツカサはどこにいるの……?」
「支倉のマンション」
「支倉のマンションって……ツカサが大学二年生から住む予定の?」
「そう」
「お部屋、入れるの?」
「最上階はうちのセカンドハウス」
その言葉に納得するも、新たな疑問が浮上する。
芸大と支倉キャンパスの最寄り駅は同じだけれど、路線バスは違ったはず。そこからすると、方角が異なるのではないだろうか。
「私、土地勘が乏しいのだけど、支倉キャンパスと芸大って近いの?」
「道が空いていれば、車で十分くらいだと思う」
「そんなに近いの? でも、バスの路線は別よね……?」
訊くと同時、信号で停まったツカサはカーナビの縮尺を変えて見せてくれた。
「間に川があるけど直線距離的にはそんなに離れてない。ただ、大学へ行く学生と病院へ行く患者が同じバスに乗って、さらには芸大に通う学生まで同じバスだと輸送力に限界があるから、路線を分けたって話を聞いたことがある」
言われて妙に納得してしまった。
「持ってきた本が読み終われば書庫の本を読むから、こっちのことは気にせず楽しんでくればいい」
「ありがとう……」
ツカサの荷物が置いてある後部座席に目をやると、大きなトートバッグの中に本が見えた。
A4サイズの本が二冊とB5サイズのハードカバーの本が一冊、ソフトカバーの本が二冊、文庫本が三冊に辞書らしき本が一冊。
私が大学にいるのは長くても半日。それはツカサも知っているはずだけど、この冊数……。
読み終わったら書庫の本って、どれほど読むのが速いのか。
そんなことを考えながら視線を前へ戻すと、国道沿いの歩道を歩く人の姿が目についた。
たぶん、みんな芸大へ向かっているのだろう。
もう近いのかな、と思ったら、カーナビから「目的地に着きました」という音声が流れてきた。
正面の信号脇には「倉敷芸術大学・短期大学入り口」のプレート。
数台前を走っていたバスがロータリーに停まると、次から次へと人が降りてくる。
人が降りるたびに揺れる車体を見ながら、いったい何人の人が乗車していたのか、と思う。
「すごい人……。柊ちゃん大丈夫かな」
「どうして?」
「柊ちゃん、私よりも身長が低いの。たぶん一四五センチもないんじゃないかな? あんな人ごみの中に入ったら埋もれちゃう」
「ふーん……」
ツカサはさほど関心なさそうに相槌を打つと、バスの後方に車を停車させた。
素早く運転席から降りると、「なんで……」という声が外から聞こえてくる。
誰に向かって何を言っているのか、ツカサが見ている方向に視線をやると、そこにはにっこりと笑った秋斗さんが立っていた。
「え……どうして?」
秋斗さんは颯爽とやってきてはトランクから車椅子を取り出し組み立てる。そして、助手席のドアを開け私に向かって手を差し伸べた。
状況が読めずにフリーズしていると、
「ほら、早く降りないと。後続車にクラクション鳴らされちゃうよ」
そんなふうに急かされたら手を借りるしかない。
何がなんだかわからないままに車椅子に腰掛けると、
「ほら運転手さん、とっとと車出して」
「っ……」
ツカサは不本意そうに運転席に収まり、不愉快極まりない表情でロータリーをあとにした。