光のもとでⅡ
Side 翠葉 07話
先生と話しているときにも感じていたけれど、テーブルを間に挟んで向かい合わせに座るの、慣れない……。
家でもゲストルームでもツカサの家でも、たいていはラグに座って人と隣り合わせに座るから。
でも、この人とは今会ったばかりで隣り合わせに座るような関係ではないから、この席次が最も妥当……。
今日何度目かの緊張を感じるも、相手はずいぶんと砕けた調子で話すし、緊張の「き」の字も感じさせない。
過去に一度話したことがあるとはいえ、ほぼほぼ初対面なのに……。
でも、このちょっと強引さを感じるフレンドリーな対応には免疫がある。
去年の四月、藤宮に入学したばかりのころ、海斗くんがこんな感じだった。
自分を落ち着けるための材料をちりばめていると、ふとした拍子に疑問が浮上する。
この人は、どうしてドアを開けた途端に私とわかったのだろう……。
「あの……どうして私がわかったんですか?」
「は? そりゃ、わかんだろ……」
えっ、わからないから訊いたのだけど……。
無言で対峙していると、
「ま、ヒントはあったんだけど……」
「ヒント、ですか……?」
「弓弦ゆづるからメールが届いてさ」
弓弦って、仙波先生……?
倉敷くんはそのメールをディスプレイに表示させ見せてくれた。
それは、先生がこの部屋を出てすぐの時間に受信したメール。
内容は、
「待ち人来たる……?」
意味がわからず首を傾げてしまう。
「待ち人、ですか……?」
「俺もそれだけじゃわからなくて、弓弦に訊こうと思ってここに来たらピアノの音が聞こえてきてさ」
それでドアを開けたであろうことは想像ができる。でもそれは、どうして私だとわかったのかの答えにはなっていないと思う。
じっと見つめるも、「もうわかるだろ?」みたいな顔。
いいえ、わかりません……。
視線のみのやり取りを交わすと、
「音聴いたらわかるだろ?」
えぇと……。
たとえば、聴きなれたアーティストの演奏というならその言い分もわかる。でも、私の演奏なんて八年も前に一度聴いただけでしょう……?
なのに、わかると言うの……?
これが生まれ持った「耳の良さ」とか、「記憶力の良さ」なのだろうか――。
「おまえのピアノ、響子の音にそっくりなんだよ。だから、聴けばわかる」
「キョウコさんって、先生のお姉さんの……?」
「そっ。それに、あのころも髪長かったし今も長い。面影ありまくりだろ?」
……そう言われてみれば、小さいころからあまり変わらないとはよく言われる。
唯兄にも桃華さんにも、小さいころのアルバムを見て「翠葉だわね」「リィだな」と言われる程度には変わっていないのだろう。
「しっかしおまえ、真面目にピアノやってこなかっただろ。なんだよ、さっきの演奏。テンポキープはできてないわ音の粒も揃ってないわ。昔のほうがうまかったんじゃん? 今、何やってんの? っていうか、なんでここにいんの?」
正面からグサグサと矢を刺され、矢継ぎ早に質問がなされる。
色んな衝撃を受けているとノック音が聞こえ、縋る思いでドアに視線をやる。と、先生が顔を覗かせた。
その先生が神様に見えるくらいには、救いを求めたくなっていた。
家でもゲストルームでもツカサの家でも、たいていはラグに座って人と隣り合わせに座るから。
でも、この人とは今会ったばかりで隣り合わせに座るような関係ではないから、この席次が最も妥当……。
今日何度目かの緊張を感じるも、相手はずいぶんと砕けた調子で話すし、緊張の「き」の字も感じさせない。
過去に一度話したことがあるとはいえ、ほぼほぼ初対面なのに……。
でも、このちょっと強引さを感じるフレンドリーな対応には免疫がある。
去年の四月、藤宮に入学したばかりのころ、海斗くんがこんな感じだった。
自分を落ち着けるための材料をちりばめていると、ふとした拍子に疑問が浮上する。
この人は、どうしてドアを開けた途端に私とわかったのだろう……。
「あの……どうして私がわかったんですか?」
「は? そりゃ、わかんだろ……」
えっ、わからないから訊いたのだけど……。
無言で対峙していると、
「ま、ヒントはあったんだけど……」
「ヒント、ですか……?」
「弓弦ゆづるからメールが届いてさ」
弓弦って、仙波先生……?
倉敷くんはそのメールをディスプレイに表示させ見せてくれた。
それは、先生がこの部屋を出てすぐの時間に受信したメール。
内容は、
「待ち人来たる……?」
意味がわからず首を傾げてしまう。
「待ち人、ですか……?」
「俺もそれだけじゃわからなくて、弓弦に訊こうと思ってここに来たらピアノの音が聞こえてきてさ」
それでドアを開けたであろうことは想像ができる。でもそれは、どうして私だとわかったのかの答えにはなっていないと思う。
じっと見つめるも、「もうわかるだろ?」みたいな顔。
いいえ、わかりません……。
視線のみのやり取りを交わすと、
「音聴いたらわかるだろ?」
えぇと……。
たとえば、聴きなれたアーティストの演奏というならその言い分もわかる。でも、私の演奏なんて八年も前に一度聴いただけでしょう……?
なのに、わかると言うの……?
これが生まれ持った「耳の良さ」とか、「記憶力の良さ」なのだろうか――。
「おまえのピアノ、響子の音にそっくりなんだよ。だから、聴けばわかる」
「キョウコさんって、先生のお姉さんの……?」
「そっ。それに、あのころも髪長かったし今も長い。面影ありまくりだろ?」
……そう言われてみれば、小さいころからあまり変わらないとはよく言われる。
唯兄にも桃華さんにも、小さいころのアルバムを見て「翠葉だわね」「リィだな」と言われる程度には変わっていないのだろう。
「しっかしおまえ、真面目にピアノやってこなかっただろ。なんだよ、さっきの演奏。テンポキープはできてないわ音の粒も揃ってないわ。昔のほうがうまかったんじゃん? 今、何やってんの? っていうか、なんでここにいんの?」
正面からグサグサと矢を刺され、矢継ぎ早に質問がなされる。
色んな衝撃を受けているとノック音が聞こえ、縋る思いでドアに視線をやる。と、先生が顔を覗かせた。
その先生が神様に見えるくらいには、救いを求めたくなっていた。