光のもとでⅡ
「ツカサ……お話、つまらない?」
「いや、そういうわけじゃない。続けて」
「うん……。コンサートが終わるまでは柊ちゃんと先生と三人でいたのだけど、コンサートが終わってから発熱していることがわかって、先生のご好意で構内にある仙波楽器出張所の応接室で休ませてもらうことになったの」
「今熱は?」
「あ……」
 バッグから携帯を取り出すと、即座に取り上げられた。
「三十七度五分……。体調は?」
「少しだるいかな? でも、大丈夫。ちょっと疲れただけだと思う」
 まだ一緒にいたい――
 そんな思いでツカサを見ると、ツカサは腕時計に視線を落としていた。
「七時になったら出よう」
「あと二十分……」
 でも、八時までに帰宅することを考えたら、渋滞にはまることも考慮して七時に出るのがベストだろう。
 少し残念な気持ちで時計を見ていると、つないでいた手に力をこめられた。
「ここに居られるのは二十分だけど、藤倉へ戻るのに二十分から三十分はかかる。あと一時間は一緒にいられる」
「そうだね……」
「それより、まださっきの人間にたどり着いてないんだけど」
 話の続きを催促され、私は少し早口で話し始める。
 先生が席を外しているときに男の子がやってきて、その男の子が八年前のコンクールで声をかけてくれた男の子だったこと。先生と一緒に手ほどきをしてくれたお姉さんが白血病で亡くなっていたこと。それに気づいたとき、ひどく動揺して泣いてしまったことや、極度のあがり症を知っている倉敷くんにAO入試を勧められたこと。
 何から何まで残さず話した。
「でも、さっき四、五人はいたと思うんだけど……」
「あ、うん。車椅子を押してくれたのが倉敷くんで、ほかの四人は正門まで送ってもらう途中で会った、倉敷くんのお友達。名前の中に春夏秋冬が入っていて、『Seasons』ってカルテットを組んでるって言ってた。あ、ライブチケットをいただいたの。次の日曜日の――」
 チケットを見せようとバッグに手を伸ばすと、つないでいた手を引っ張られ、勢いのままにツカサ側へ身体が傾く。と、瞬く間に口付けられた。
「んっ――」
 急で強引なキスにびっくりしていると、
「これ以上は限界。ほかの男の話なんかするな」
 そう言って、再度噛み付かれるようなキスをされる。
「……嫉妬、してくれたの?」
「だったら何?」
「ううん。ただ、嬉しいなって……」
「は……?」
「だって……好きって言われてるみたいで嬉しい」
 つい頬が緩んでしまう私に対し、ツカサはものすごく不服そうな面持ちだ。
 私は仏頂面に手を伸ばし、白い頬をぷにっとつまむ。
「でもね、嫉妬なんてしなくて大丈夫だよ。私が好きなのはツカサだけだもの」
 言った直後、室内にオルゴール音が響く。
 一フレーズで途切れたところを見るとメールのようだけど、
「誰だろう……?」
 ツカサにくっついたまま携帯を操作する。と、倉敷くんからのメールだった。
< 1,181 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop