光のもとでⅡ

Side 慧 05話

 外の暗さに目を留めた翠葉は、室内の置時計に目をやり、
「あの、私、そろそろ失礼します」
「もうそんな時間? あぁ、もう五時を回っていたんですね」
 バッグにタンブラーをしまう翠葉を見ながら、
「翠葉は誰か迎えに来んの?」
「うん。連絡したら十分ちょっとで来てもらえると思う」
「なら、今電話すれば? こっから正門まで十分くらいだから」
 翠葉は素直に従い、俺たちに断わりを入れてから電話をかけ始めた。
 そんな行動の端々に、礼儀正しさというか育ちの良さが垣間見える何か……。
「ツカサ……? ――うん。今から正門へ向かうから、迎えに来てもらってもいいかな?」
「ツカサ」って誰だろう?
 両親のどっちかが迎えに来てくれるんだろうと思っていた俺は、「ツカサ」という人物が気になって仕方がない。けど、電話が終わったところで訊ける気はしない。
 なんでだろ……。いつもなら気になったことは即行で訊く性質なんだけど……。
 あれかな? 怯えさせたり泣かせたりで、ちょっとびびってんのかも。
 ちょっとあれに似てる。すっげー精巧なガラス細工を手に持つときの感覚。
 こんなとき、女の扱いがうまい真冬がいたら、俺の代わりにさりげなく聞き出してくれるのに。
 翠葉の短い通話が終わると、
「僕は柊ちゃんの様子を見に行くので、慧くん、御園生さんを正門まで送ってあげてくれる?」
「頼まれた!」
「弓弦、ぐっじょぶ!」くらいに思っていたのに、翠葉は固辞する。
「じゃ、この建物出たら右左どっちに行くのが正解?」
 これで正解を答えられたらそれ以上は何も言えないけど……。
 右……右って答えろ、右っ!
 念を送りながら翠葉を見ていると、翠葉はゆっくりと首をかしげ、
「右?」
 よっしゃ! 今日の神様働き者っ!
「ブッブー。おとなしく送られろ」
 ガッツポーズは我慢できたけど、ドヤ顔までは我慢できなかった。
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