光のもとでⅡ
 先陣切って歩いていた俺に、春夏冬が絡んでくる。
「弓弦さんの言ってた待ち人ってあの子のこと?」
 真冬に訊かれ、簡潔に「そう」と答えると、
「へぇ~」
「ふぅ~ん」
 春と夏はすでにからかいモードだ。その反対側で秋が、
「なんか、妖精みたいに儚げできれいな子だったね?」
 実にほのぼのとした調子で感想を言う。
「でも、なんであの子が『待ち人』? 『待ち人来る』って慧のところに送られてきたってことは、慧が待ってる人間って意味だろ?」
 ちくしょう、真冬は鋭い。
「……俺が小六のとき、コンクールで二位入賞だったことあるだろ?」
「あぁ……演奏直前まで緊張でがっちがちだった超絶かわいい子に――あ、もしかして、その女の子があの子?」
「ピンポン」
「ってことは同い年?」
 春に尋ねられ、
「いや、一個下だった」
「じゃ、今高三? しかも、弓弦さんの生徒ってことは、今シーズンうち受験?」
 この返答にはちょっと悩む。
 一個下だけど、病気で留年してるって話していいものか……。
 口止めはされてないけど、あまり話されたい内容ではないだろうし……。
 でも、こいつらだったら大丈夫かな。吹聴して回るような人間たちではないし、そのあたりは信用できる。
「もし翠葉がこの大学に入ってきたとしても、ほかの人間や本人にも話すなよ?」
 四人は顔を見合わせ近付いてきた。
「年はひとつ下だけど、病気で留年して学年は二個下」
 四人は各々納得した旨を口にした。
「うちの大学も受験視野には入れてるみたいだけど、まだ進路を音大一本に決めたわけじゃないって言ってた」
「へぇ……珍しい。音大の受験を考えてる人間って、たいていは音大一本だもんね」
 春の言葉に夏が頷く。と、
「いや、うちの兄貴、法学部落ちて音大行ったけど?」
 真冬の言葉に四人同時に反応した。
「「「「それはイレギュラーすぎ」」」」
 真冬の兄、颯(はやて)くんは法学部の受験に失敗し、浪人したくないという理由で音大に入った変わり者。
 進路を土壇場で変えたにも関わらず、ちゃっかり音大に受かり、今では父さんが指揮をしている支倉フィルハーモニーの楽団員。次代のコンマスと言われるほどには未来を嘱望されているヴァイオリニストだ。さらには、臨時講師としてうちの大学にも出入りしている。
 ピアノはうちの母さんに習っていたことから、弓弦や俺とも交流がある。
「で? 慧はあの子の連絡先くらいゲットしてるんだろうな?」
 真冬ににじり寄られ、俺はポケットから取り出したスマホを印籠のように翳した。
「ふっふっふ……このスマホの中にはあいつの電話番号とメアドがしっかり入ってるぜ!」
「「つか、そのくらい当然だし」」
 夏と春の突っ込みにむくれると真冬が、
「まぁまぁ、ピアノ一辺倒の慧にしてはがんばったほうなんじゃん? 慧、今日中に爪あと残すべくメールくらい送っておけよ」
 そんなアドバイスをされ、奏楽堂で四人と別れた。
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