光のもとでⅡ
「楽器店は駅向こう。ここからだと徒歩二十分くらいなんですが……大丈夫ですか?」
 先生に訊かれて少し戸惑う。
 家の中を移動したり、音楽教室内を移動するのは難なくできていた。しかし、外は段差の宝庫だ。
 音楽教室を出たところの歩道ですら、石畳調の歩道で構えてしまう。
「えぇと……二十分ではたどり着けそうにないのですが、がんばります……」
 そんな返答をすると笑われた。
 先生は駅から走ってくるタクシーを見ながら、
「ここからではタクシーを拾うのは無理そうですね。でも、駅まで行けば乗れるでしょう」
 たぶん、迷惑をかけずに行く方法としてはタクシーに乗ることが最善だろう。でも、明日から松葉杖で登校することを考えれば、歩くことに少し慣れておきたいというのが本音……。
「あの……先生さえ迷惑でなければ徒歩でいいですか?」
「どうしてですか? タクシーのほうが楽でしょう?」
「はい。間違いなくタクシーのほうが楽です。でも、明日からのことを考えると、少し松葉杖に慣れておきたくて……」
「もしかして、松葉杖は今日から?」
「はい」
「そうでしたか。じゃ、三十分くらいかけてゆっくり行きましょうか。かばんは僕が持ちましょう」
 言うと、先生は私の肩からずり落ちてきたバッグを持ってくれた。
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