光のもとでⅡ

Side 翠葉 02話

 五時になって地下のライブハウスへ移動すると、フロアが三段に分かれていた。
 一番低いフロアにステージがあり、その前には椅子が三列に渡って並べられている。
 二段目にはローテーブルとソファが置かれたゆったりとした空間になっており、三段目には立ち見できるよう、手すりやスタンドテーブルが設置され、その奥にはバーカウンターが設けられていた。
 私がもらったチケットは「ワンドリンク付」と書かれていて、どうやらバーカウンターでソフトドリンクがもらえるらしい。
「ソファが置いてあるフロアはリザーブ席なので、僕らが観覧するのはステージ前か立見席ですね。まだ席も空いてますし、今日はステージ前の観覧席に座りましょう」
 バーカウンターへ行きリンゴジュースをもらうと、それは先生に持っていただいて一階席へと移動する。
 その途中、
「あのっ、ピアニストの仙波弓弦さんですよね?」
 ふたり組みの女性に声をかけられた。
「はい、そうですが」
「サインいただけませんかっ!?」
 先生はジュースを持った両手を少し持ち上げ、
「今、両手がふさがっているので少しお待ちいただけますか?」
「「はいっ!」」
 先生は私を席まで案内すると、すぐに彼女たちのもとへ戻った。
 しばらくして戻ってきた先生に、
「有名人ですね?」
「うーん……そんなこともないんですけどね、場所柄でしょうか」
「場所柄、ですか……?」
「えぇ。僕もここでよく演奏させてもらってましたから」
 そんな話を聞けば、改めてピアニストであることを実感する。
「今度、先生の演奏を聴きに行きたいです」
「おや、嬉しいですね。これからのシーズンはホテルでのディナーコンサートばかりですが、年明けに支倉ホールでリサイタルがあります。帰りにそのフライヤーをお渡ししますね」
「ありがとうございます」
 人の気配を感じ、背後を振り返る。と、私たちが座るフロアとリザーブ席はすべて埋まっていた。そして、三段目の立見席も手すり際にはずらりと人が並んでいる。
 見た感じ、満員御礼。
 ライブハウスの入り口で渡されたフライヤーに目を通すと、慧くんと「Seasons」のほかにふたりの奏者が演奏するようだ。
< 1,220 / 1,333 >

この作品をシェア

pagetop