光のもとでⅡ
 一週間前は「好き」と言われた気がして嬉しいと喜んだけれど、こんなツカサを見てしまったら、喜ぶなんてできない。
 そのくらい、苦しそうな顔をしていた。
「嫉妬」とは、そんなにも苦しいものなのだろうか。
 もし私がツカサの立場だったら……?
 ツカサが私の知らない女の子と話していたら、私は嫉妬するだろうか。
 ……珍しいな、とは思うかも。
 でも、その先の感情はなかなか想像ができない。想像が追いつかない。
 沈黙したまま着々と藤倉へ近づいていく。
 気まずいまま別れるなんていやだけど、なら何を話したらいいのか――
 ピアノの調律のことや通いのレッスンをホームレッスンに切り替えること。話したいことはたくさんあるけど、何を話してもツカサの機嫌を損ねてしまいそうで話すに話せない。
 話せそうな話題や言葉を探していると、
「それ……」
「え?」
 ツカサを見ると、チラ、と私の手元を見た。
 たぶん、ツカサが見たのはブレスレットだと思う。
「ブレスレットがどうかした……?」
「休みの日、いつもつけてるけど、そんなに気に入った?」
「すごくっ。ピアノを弾くときははずさなくちゃいけないけど、それ以外はずっとつけてるよ」
「ふーん……どの石が一番好き?」
「えっ? 難しい……透明な水晶も好きだし、レモンイエローのシトリンも好き。でも……緑のペリドットが一番好き、かな」
「どうして?」
 明確な理由はあるのだけど、話すのはちょっと照れくさい。
「ツカサは石言葉って知ってる?」
「いや……」
「私も知らなくて、栞さんが教えてくれたの。水晶は純粋。シトリンは初恋の味、ペリドットは――運命の絆。……これを持っていたら、ずっとツカサと一緒にいられそうでしょう? だから、好き」
 言ったと同時、赤信号で車が停まり、運転席から身を乗り出したツカサにキスをされた。
 至近距離で視線が交わり、
「ツカサ、好きよ」
 すると、もう一度キスをしてくれた。
 気持ちはちゃんと伝わっただろうか……。
 不安は残るのに、信号は待ってくれない。
 車は、何事もなかったように走り出した。
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