光のもとでⅡ
Side 司 02話
車を発進させると、隣でそわそわしていた翠が口を開いた。
「迎えに来てくれてありがとう」
すごい嬉しそう……。
「でも、どうして? 昨日電話で話したときは何も言ってなかったのに。……あ、もしかして、今日から松葉杖って話したから心配して来てくれたの?」
声が弾んでいて、何を話しても「嬉しい」という感情が駄々漏れの話し方がかわいい。
けど、その「嬉しい」はどこから来るのか。
俺が迎えに来たことが嬉しいのか、ライブが楽しかったのが尾を引いているのか。
そんな些細なことまで気になる俺はどうかしている。
結果、どうかしている状態で「それもあるけど」なんて歯切れ悪い答えを返していた。
足の怪我が心配だった。だから迎えに来た。それでいいじゃないか。
今ちょっと機嫌が悪いのは、秋兄が翠を迎えに行ったからで――
もっともらしい提案を試みても、ものの見事にうまくいかない。
だから恋愛は厄介なんだ……。
結局、「どうして来たのか」という言及から逃れたくて、話題を変えることにした。
「ライブ、どうだったの?」
「すごかったっ! 一番最初はヴァイオリンのソロで、二番目がジャズシンガー。三番目が今日のチケットをくれた人たちのグループだったのだけど、そこはヴァイオリンふたりとヴィオラ、チェロのカルテットで、最後が慧くんのピアノだったの! 私、ジャズシンガーの歌を聴くのも弦楽四重奏をちゃんと聴くのは初めてで、何もかもが新鮮だった。ライブハウスってすごいのよ? 開場時間ぴったりに行くとステージの目の前の席に座れたりしてね、アーティストとの距離が二メートルくらいなの! 今まで大きなホールでしか演奏を聴いたことがなかったから、より近くで感じる音の振動に鳥肌立っちゃった!」
あぁ、こっちかな……。
俺が来たのが嬉しかったんじゃなくて、ライブで上がったテンションが後を引いているだけ。
こんな翠は一週間前にも見た。
芸大祭の帰りもこんなふうにあった出来事をあれこれ嬉しそうに話していて、俺は嫉妬に任せて物理的に翠の口を塞いだのだ。
なんか、今日も同じことしそう。
むしろ、今すぐにでも塞ぎたいのに自分は運転中なわけで……。
「ごめん、私、はしゃぎすぎ?」
翠は身体の向きを変えて俺の顔を覗き込んでいた。
「いや別に……。楽しかったならよかったんじゃない」
まるで中身の伴わない言葉。
「まだ、機嫌悪い?」
「自分以外の男に会いに行って、嬉しそうに話している彼女を見て機嫌のいい男はいないと思う」
っ――口が滑った。
焦ったのは一瞬。
口にしてしまったものは仕方ない、とどこか開き直る自分がいた。
「迎えに来てくれてありがとう」
すごい嬉しそう……。
「でも、どうして? 昨日電話で話したときは何も言ってなかったのに。……あ、もしかして、今日から松葉杖って話したから心配して来てくれたの?」
声が弾んでいて、何を話しても「嬉しい」という感情が駄々漏れの話し方がかわいい。
けど、その「嬉しい」はどこから来るのか。
俺が迎えに来たことが嬉しいのか、ライブが楽しかったのが尾を引いているのか。
そんな些細なことまで気になる俺はどうかしている。
結果、どうかしている状態で「それもあるけど」なんて歯切れ悪い答えを返していた。
足の怪我が心配だった。だから迎えに来た。それでいいじゃないか。
今ちょっと機嫌が悪いのは、秋兄が翠を迎えに行ったからで――
もっともらしい提案を試みても、ものの見事にうまくいかない。
だから恋愛は厄介なんだ……。
結局、「どうして来たのか」という言及から逃れたくて、話題を変えることにした。
「ライブ、どうだったの?」
「すごかったっ! 一番最初はヴァイオリンのソロで、二番目がジャズシンガー。三番目が今日のチケットをくれた人たちのグループだったのだけど、そこはヴァイオリンふたりとヴィオラ、チェロのカルテットで、最後が慧くんのピアノだったの! 私、ジャズシンガーの歌を聴くのも弦楽四重奏をちゃんと聴くのは初めてで、何もかもが新鮮だった。ライブハウスってすごいのよ? 開場時間ぴったりに行くとステージの目の前の席に座れたりしてね、アーティストとの距離が二メートルくらいなの! 今まで大きなホールでしか演奏を聴いたことがなかったから、より近くで感じる音の振動に鳥肌立っちゃった!」
あぁ、こっちかな……。
俺が来たのが嬉しかったんじゃなくて、ライブで上がったテンションが後を引いているだけ。
こんな翠は一週間前にも見た。
芸大祭の帰りもこんなふうにあった出来事をあれこれ嬉しそうに話していて、俺は嫉妬に任せて物理的に翠の口を塞いだのだ。
なんか、今日も同じことしそう。
むしろ、今すぐにでも塞ぎたいのに自分は運転中なわけで……。
「ごめん、私、はしゃぎすぎ?」
翠は身体の向きを変えて俺の顔を覗き込んでいた。
「いや別に……。楽しかったならよかったんじゃない」
まるで中身の伴わない言葉。
「まだ、機嫌悪い?」
「自分以外の男に会いに行って、嬉しそうに話している彼女を見て機嫌のいい男はいないと思う」
っ――口が滑った。
焦ったのは一瞬。
口にしてしまったものは仕方ない、とどこか開き直る自分がいた。