光のもとでⅡ
年越し初詣
一年越しの約束 Side 明 01話
大晦日当日――俺たちは、一年越しの約束が果たされることを祈りながらこの日を迎えた。
去年の年末、御園生は大きな手術をしてここへは来られなかった。今年は、直前の連絡でも「来られる」という返事をもらっているわけだけど、土壇場になって体調を崩すのが御園生だったりするわけで、未だ安心できずに到着を待ちわびている。
「佐野、そんな心配しなくても大丈夫よ。さっき蒼樹さんと電話で話したけれど、翠葉の体調が悪いという話は聞かなかったし、翠葉の話だと藤宮司が一緒に来るらしいから」
「そっか……それなら安心かな」
そんな返事をしつつも不安がきれいに拭われることはなく、俺は神社の入り口をじっと見ていた。
そこへヤマタロがやってきて、細長い猿みたいな腕に絡まれる。
「なあなあ、去年は友達連れてきたらえらい剣幕で怒ったのに、今年はなんで友達呼んでもOKになったん?」
「あ~……まったく平気ってわけじゃないんだけど、御園生が御園生なりに努力しているのがわかったから、かなぁ……」
「何それ」
「前に話したとおり、初対面の人間――とくに男子が苦手なやつなんだ。でも最近は、クラスメイト以外の男子とも普通に接しようとしてるみたいだから、俺が勝手にセーブしなくても大丈夫かな、って」
「ふーん……なんかさ、美少女で人見知り、さらには男が苦手とかって萌える要素満載じゃね?」
御園生にやっと会えるとあって、ヤマタロは異様にテンションが高い。なんとなく、年末テンションやら深夜テンションが追加されている気がする。
もしこのテンションで近づいたら、御園生は一、二歩下がるだろうなぁ……。
そんな想像をしつつ、ヤマタロに助言を試みる。
「あのさ、おまえはちょっと猫かぶって接するくらいが御園生にとってちょうどいいと思う」
「えっ? このままじゃだめなのっ?」
「そうだなぁ……このままだと御園生は、一、二歩下がって人の影に隠れちゃう系かな?」
「えええっ、なんで!? 藤宮にだって俺みたいなノリのやついるじゃん! 漣くんとかさっ」
「あぁ、それがいい例だな……。御園生、千里に慣れるまでにはめっさ時間かかったから」
「そりゃあかん……。わかりました、借りられてきた猫を装ってみます」
「頼んます。それと、一応紹介はするけど、簾条情報によると、きれいな顔したおっかないボディーガードが一緒って話だから、そこらへんはヤマタロの危険察知センサーで回避して」
「どういうこと? 海斗っちみたいにボディーガード連れてるってこと?」
「それとは別枠のボディーガードがついてる」
「意味がわからない」といった顔をしたヤマタロを放置して、俺はみんなのもとへと戻った。
御園生が到着したのは十一時前。
海斗と同様に黒服を着たボディーガードを従え、藤宮先輩と並んでやってきた。
俺たちの近くまで来るとボディーガードは三メートルほど離れた場所からあたりを警戒し、御園生たちの動向をうかがっていた。
ちょっと物々しい雰囲気を感じつつ、御園生に声をかける。
「いらっしゃい」
「こんばんは」
「今年は来れたな」
御園生は苦笑しながら「うん」と答える。
「去年はものすごく心配かけちゃったよね。ごめんね?」
「もういいよ。でも、これからはずっと元気でいて」
「それはものすごく難しそう」
言って、御園生はクスクスと笑った。
「藤宮先輩もいらっしゃい」
先輩はちらっと視線を合わせ、面白くなさそうに視線を逸らす。けれど、その手はしっかりと御園生の右手を握っていた。
さぁて、これをどうやってヤマタロに紹介するかなぁ……。
もういっそ、この場で紹介してしまってヤマタロに丸投げしてしまおうか。
いやいやいや、それじゃいくらなんでもヤマタロに悪いだろうか……。
悩みに悩んでいると、
「翠葉ちゃーん、いらっしゃーい!」
底抜けに明るい柊の声が響き、柊は猪突猛進よろしく御園生に突っ込んでいった。
「ちょ、柊っ!?」
そんな勢いでぶつかったら御園生が折れるっ――
焦って止めようとした瞬間、御園生は藤宮先輩の瞬発力によって衝突を免れた。
空振った柊は勢いに任せてボディーガードに突っ込む。しかし、持ち前の明るさで謝罪をすると、何事もなかったように御園生のもとまで戻ってきた。
「こんばんは! むっちゃくちゃ寒いけど、翠葉ちゃん大丈夫?」
「うん。あちこちにカイロ貼って、防寒対策万全!」
「そのふわっふわのイヤーマフかわいいっ! 触ってもいい?」
「どうぞ」
じゃれあうふたりを見て、いい関係を築けているんだな、と思う。
そこへ、そわそわしたヤマタロを連れた聖がやってきた。
聖の影から御園生をガン見しているヤマタロは、
「うおおお! やっべ、めっちゃかわいい! 人形みてぇっ! 髪、すんげー長くなってるし!」
おいおい……それ、聖の影に隠れてるだけで、全然猫かぶれてねぇじゃんか……。
そもそもおまえには、御園生の隣に立つ人間が見えていないのかっ!?
麗しい顔の眉間にしわを寄せ、超絶うざいものを見る目でおまえのこと見てるけどっ!?
「はじめましてっ! 聖たちと同じ高校の山田太郎ですっ! 俺、中学んときに藤宮病院に入院してたことがあって、明とも知り合いなんだけど、リハビリルームに来る御園生さんのことも何度か見かけたことがあるんだ!」
あぁ、アウトオブ眼中だ……。
見たいものしか目に入ってないとか、生命の危機すぎる。
今確定した。おまえの危険察知センサーポンコツすぎ! たまにはアップデートしないといつか命落とすぞっ!
御園生は御園生で、びっくりした様子で目を見開いていた。
今後の展開が容易に想像できる。
御園生は、間違いなく後ずさるだろう。もしくは、さっきのように藤宮先輩が動く。
緊張の面持ちで見守っていると、御園生からヤマタロへ左手が差し出された。
「御園生翠葉です。よろしく」
そんな姿を見て、あぁ……本当に努力しているんだな、と思った。
ふと気づけば、少し離れたところから簾条や海斗たちもその様子を眺めていて、その周りにいるうちの学校の人間は、一様に満足げな表情をしていた。
やっぱり……俺が変に気を回して予防線を張る必要なんて、もうないんだな……。
それは少し寂しい気もするけど、どこか誇らしい気もしするわけで、子どもの成長を見守る親ってこんな気持ちなのかな、と思う。
「ん……? 左手に指輪?……えっ、薬指っ!?」
御園生の指にはまる指輪に気づいたヤマタロが、手を掴んだまままじまじと見ていると、御園生の手を取り上げるように藤宮先輩が間に入った。
「婚約者がいる人間の手を、そう長々と掴んでいるものじゃない」
「……へ? 婚約者?」
ようやく藤宮先輩が目に入ったらしいヤマタロは、一気に後ろへ飛びのいた。
今さら危険察知センサーが働いたところで手遅れもいいとこなんだけど……。
それにしても婚約者ときましたか……。
ま、クリスマスパーティーのときのあれはプロポーズみたいなもんだし、その指輪を御園生が左手にはめた時点で了承したも同然か。
しかしヤマタロとは別に、御園生自身が不思議そうな顔してるのはなんでなの?
さらに御園生は、その表情を明確に言葉へと変換してしまう。
「婚約者って……?」
その発言は地雷だったと思う。
藤宮先輩は眉間のしわを深め、
「俺が結婚を前提で交際を申し込み、翠が了承した時点で婚約は成立したものだと思っているけど――」
えええ!? そんな前からっ!?
そう思ったのは俺だけではないらしく、柊や聖、当事者である御園生ですら「えっ!?」と声をあげる始末。
拍車をかけて凄みを増した藤宮先輩は、底冷えするような笑顔を貼り付け、
「えって何? それ、どこに疑問を持ったわけ?」
「えと、婚約っていうところ……?」
御園生は実に素直に口にした。
しかしそれは第二の地雷だったようで、藤宮先輩は不機嫌をあらわすかのように、淡々と説明を連ね始める。
「婚約――つまり、結婚の約束をした時点で婚約の状態なわけだけど、何。異存があるとでも?」
掴んだ右手を引っ張るように詰め寄ると、
「……ないような、あるような……」
御園生は苦笑いで回避しようとするも、藤宮先輩の「どっちなの」という言葉に竦み上がる。
ちょっとちょっと、彼女であったり婚約者を竦み上がらせるとはいかがなものか。
はらはらしながら見守っていると、
「若干あります……」
御園生は勇者決定で……。
あぁ、こんなやつだから藤宮先輩と付き合えるんだろうなぁ……。普通の人間、そこで「あります」とか答えられないよ。
もっというなら、こんな会話を大勢の前でできることに驚きなわけだけど……。
「どこら辺に」
「……あれ、プロポーズだったの?」
「そのつもりだけど……」
藤宮先輩は実にうんざりした表情で、
「でも、俺にその気があっても言われた側がまったくその意図を汲んでなかったら意味がないから、もう一度言う。付き合う限りは結婚まで考えているし、そのつもりで付き合ってきたんだけど、何か異存は?」
「だからそれ……プロポーズなの?」
「……何をどう話したら正解なの?」
無言になった御園生の気持ちはわからなくもない。そんなの自分で考えろ、って話じゃないっすか……。
「……あぁ、わかった。結婚してください?」
「そんなに投げやりに言わないでっ!」
「投げやりにだってなるだろ。四月にそのつもりで会話してて、さらにはクリスマスパーティーで婚約指輪の代わりのプレゼントって指輪まで渡してるんだから」
あぁ、このふたりは相変わらずだな……。
ひとつため息をついて周りを見回すと、うちの学校の人間も聖たちも真っ赤な顔して立ち尽くしているし、簾条や海斗、立花は「またやってる」みたいな呆れ顔。
ま、確かに、免疫のない人間たちにとっちゃ赤面棒立ちコースだな。
ヤマタロなんて一番近くで観覧してガッツリ当てられちゃってるし……。
俺はヤマタロの首根っこを掴み、ついでに柊と聖を回収してその場を離れることにした。
去年の年末、御園生は大きな手術をしてここへは来られなかった。今年は、直前の連絡でも「来られる」という返事をもらっているわけだけど、土壇場になって体調を崩すのが御園生だったりするわけで、未だ安心できずに到着を待ちわびている。
「佐野、そんな心配しなくても大丈夫よ。さっき蒼樹さんと電話で話したけれど、翠葉の体調が悪いという話は聞かなかったし、翠葉の話だと藤宮司が一緒に来るらしいから」
「そっか……それなら安心かな」
そんな返事をしつつも不安がきれいに拭われることはなく、俺は神社の入り口をじっと見ていた。
そこへヤマタロがやってきて、細長い猿みたいな腕に絡まれる。
「なあなあ、去年は友達連れてきたらえらい剣幕で怒ったのに、今年はなんで友達呼んでもOKになったん?」
「あ~……まったく平気ってわけじゃないんだけど、御園生が御園生なりに努力しているのがわかったから、かなぁ……」
「何それ」
「前に話したとおり、初対面の人間――とくに男子が苦手なやつなんだ。でも最近は、クラスメイト以外の男子とも普通に接しようとしてるみたいだから、俺が勝手にセーブしなくても大丈夫かな、って」
「ふーん……なんかさ、美少女で人見知り、さらには男が苦手とかって萌える要素満載じゃね?」
御園生にやっと会えるとあって、ヤマタロは異様にテンションが高い。なんとなく、年末テンションやら深夜テンションが追加されている気がする。
もしこのテンションで近づいたら、御園生は一、二歩下がるだろうなぁ……。
そんな想像をしつつ、ヤマタロに助言を試みる。
「あのさ、おまえはちょっと猫かぶって接するくらいが御園生にとってちょうどいいと思う」
「えっ? このままじゃだめなのっ?」
「そうだなぁ……このままだと御園生は、一、二歩下がって人の影に隠れちゃう系かな?」
「えええっ、なんで!? 藤宮にだって俺みたいなノリのやついるじゃん! 漣くんとかさっ」
「あぁ、それがいい例だな……。御園生、千里に慣れるまでにはめっさ時間かかったから」
「そりゃあかん……。わかりました、借りられてきた猫を装ってみます」
「頼んます。それと、一応紹介はするけど、簾条情報によると、きれいな顔したおっかないボディーガードが一緒って話だから、そこらへんはヤマタロの危険察知センサーで回避して」
「どういうこと? 海斗っちみたいにボディーガード連れてるってこと?」
「それとは別枠のボディーガードがついてる」
「意味がわからない」といった顔をしたヤマタロを放置して、俺はみんなのもとへと戻った。
御園生が到着したのは十一時前。
海斗と同様に黒服を着たボディーガードを従え、藤宮先輩と並んでやってきた。
俺たちの近くまで来るとボディーガードは三メートルほど離れた場所からあたりを警戒し、御園生たちの動向をうかがっていた。
ちょっと物々しい雰囲気を感じつつ、御園生に声をかける。
「いらっしゃい」
「こんばんは」
「今年は来れたな」
御園生は苦笑しながら「うん」と答える。
「去年はものすごく心配かけちゃったよね。ごめんね?」
「もういいよ。でも、これからはずっと元気でいて」
「それはものすごく難しそう」
言って、御園生はクスクスと笑った。
「藤宮先輩もいらっしゃい」
先輩はちらっと視線を合わせ、面白くなさそうに視線を逸らす。けれど、その手はしっかりと御園生の右手を握っていた。
さぁて、これをどうやってヤマタロに紹介するかなぁ……。
もういっそ、この場で紹介してしまってヤマタロに丸投げしてしまおうか。
いやいやいや、それじゃいくらなんでもヤマタロに悪いだろうか……。
悩みに悩んでいると、
「翠葉ちゃーん、いらっしゃーい!」
底抜けに明るい柊の声が響き、柊は猪突猛進よろしく御園生に突っ込んでいった。
「ちょ、柊っ!?」
そんな勢いでぶつかったら御園生が折れるっ――
焦って止めようとした瞬間、御園生は藤宮先輩の瞬発力によって衝突を免れた。
空振った柊は勢いに任せてボディーガードに突っ込む。しかし、持ち前の明るさで謝罪をすると、何事もなかったように御園生のもとまで戻ってきた。
「こんばんは! むっちゃくちゃ寒いけど、翠葉ちゃん大丈夫?」
「うん。あちこちにカイロ貼って、防寒対策万全!」
「そのふわっふわのイヤーマフかわいいっ! 触ってもいい?」
「どうぞ」
じゃれあうふたりを見て、いい関係を築けているんだな、と思う。
そこへ、そわそわしたヤマタロを連れた聖がやってきた。
聖の影から御園生をガン見しているヤマタロは、
「うおおお! やっべ、めっちゃかわいい! 人形みてぇっ! 髪、すんげー長くなってるし!」
おいおい……それ、聖の影に隠れてるだけで、全然猫かぶれてねぇじゃんか……。
そもそもおまえには、御園生の隣に立つ人間が見えていないのかっ!?
麗しい顔の眉間にしわを寄せ、超絶うざいものを見る目でおまえのこと見てるけどっ!?
「はじめましてっ! 聖たちと同じ高校の山田太郎ですっ! 俺、中学んときに藤宮病院に入院してたことがあって、明とも知り合いなんだけど、リハビリルームに来る御園生さんのことも何度か見かけたことがあるんだ!」
あぁ、アウトオブ眼中だ……。
見たいものしか目に入ってないとか、生命の危機すぎる。
今確定した。おまえの危険察知センサーポンコツすぎ! たまにはアップデートしないといつか命落とすぞっ!
御園生は御園生で、びっくりした様子で目を見開いていた。
今後の展開が容易に想像できる。
御園生は、間違いなく後ずさるだろう。もしくは、さっきのように藤宮先輩が動く。
緊張の面持ちで見守っていると、御園生からヤマタロへ左手が差し出された。
「御園生翠葉です。よろしく」
そんな姿を見て、あぁ……本当に努力しているんだな、と思った。
ふと気づけば、少し離れたところから簾条や海斗たちもその様子を眺めていて、その周りにいるうちの学校の人間は、一様に満足げな表情をしていた。
やっぱり……俺が変に気を回して予防線を張る必要なんて、もうないんだな……。
それは少し寂しい気もするけど、どこか誇らしい気もしするわけで、子どもの成長を見守る親ってこんな気持ちなのかな、と思う。
「ん……? 左手に指輪?……えっ、薬指っ!?」
御園生の指にはまる指輪に気づいたヤマタロが、手を掴んだまままじまじと見ていると、御園生の手を取り上げるように藤宮先輩が間に入った。
「婚約者がいる人間の手を、そう長々と掴んでいるものじゃない」
「……へ? 婚約者?」
ようやく藤宮先輩が目に入ったらしいヤマタロは、一気に後ろへ飛びのいた。
今さら危険察知センサーが働いたところで手遅れもいいとこなんだけど……。
それにしても婚約者ときましたか……。
ま、クリスマスパーティーのときのあれはプロポーズみたいなもんだし、その指輪を御園生が左手にはめた時点で了承したも同然か。
しかしヤマタロとは別に、御園生自身が不思議そうな顔してるのはなんでなの?
さらに御園生は、その表情を明確に言葉へと変換してしまう。
「婚約者って……?」
その発言は地雷だったと思う。
藤宮先輩は眉間のしわを深め、
「俺が結婚を前提で交際を申し込み、翠が了承した時点で婚約は成立したものだと思っているけど――」
えええ!? そんな前からっ!?
そう思ったのは俺だけではないらしく、柊や聖、当事者である御園生ですら「えっ!?」と声をあげる始末。
拍車をかけて凄みを増した藤宮先輩は、底冷えするような笑顔を貼り付け、
「えって何? それ、どこに疑問を持ったわけ?」
「えと、婚約っていうところ……?」
御園生は実に素直に口にした。
しかしそれは第二の地雷だったようで、藤宮先輩は不機嫌をあらわすかのように、淡々と説明を連ね始める。
「婚約――つまり、結婚の約束をした時点で婚約の状態なわけだけど、何。異存があるとでも?」
掴んだ右手を引っ張るように詰め寄ると、
「……ないような、あるような……」
御園生は苦笑いで回避しようとするも、藤宮先輩の「どっちなの」という言葉に竦み上がる。
ちょっとちょっと、彼女であったり婚約者を竦み上がらせるとはいかがなものか。
はらはらしながら見守っていると、
「若干あります……」
御園生は勇者決定で……。
あぁ、こんなやつだから藤宮先輩と付き合えるんだろうなぁ……。普通の人間、そこで「あります」とか答えられないよ。
もっというなら、こんな会話を大勢の前でできることに驚きなわけだけど……。
「どこら辺に」
「……あれ、プロポーズだったの?」
「そのつもりだけど……」
藤宮先輩は実にうんざりした表情で、
「でも、俺にその気があっても言われた側がまったくその意図を汲んでなかったら意味がないから、もう一度言う。付き合う限りは結婚まで考えているし、そのつもりで付き合ってきたんだけど、何か異存は?」
「だからそれ……プロポーズなの?」
「……何をどう話したら正解なの?」
無言になった御園生の気持ちはわからなくもない。そんなの自分で考えろ、って話じゃないっすか……。
「……あぁ、わかった。結婚してください?」
「そんなに投げやりに言わないでっ!」
「投げやりにだってなるだろ。四月にそのつもりで会話してて、さらにはクリスマスパーティーで婚約指輪の代わりのプレゼントって指輪まで渡してるんだから」
あぁ、このふたりは相変わらずだな……。
ひとつため息をついて周りを見回すと、うちの学校の人間も聖たちも真っ赤な顔して立ち尽くしているし、簾条や海斗、立花は「またやってる」みたいな呆れ顔。
ま、確かに、免疫のない人間たちにとっちゃ赤面棒立ちコースだな。
ヤマタロなんて一番近くで観覧してガッツリ当てられちゃってるし……。
俺はヤマタロの首根っこを掴み、ついでに柊と聖を回収してその場を離れることにした。