光のもとでⅡ
「ずいぶんと機嫌悪そうだな?」
 どこからともなく現れた秋兄に言われ、ぞんざいな視線を向ける。
「翠葉ちゃんのエスコート、じーさんや俺に先越されたことがそんなに癪だった?」
「別に……」
「じゃ、何?」
 言いたくない。今日の翠を見て動揺しているなど、知られたくはない。
「翠葉ちゃんがきれいすぎて正視できない? ――図星?」
 咄嗟に表情を繕うことができなかった。
「確かに、鮮やかな紅を引いた翠葉ちゃんはそそるよね? まだ少しあどけない表情の中にあの紅はやけに扇情的に映る。それに加えて、ゆったりとした衿の抜き加減が絶妙。色香を感じる白いうなじに唇を這わせたいと思っているのは司だけじゃないよ」
 あえて言葉には変換せずにいたことひとつひとつを明確にされ、どうしようもなく苛立つ。
 言葉に変換されたところで何ひとつ救われない。むしろ、秋兄も俺と同じような目で翠を見ていたのか、と思うとたまらなく腹が立つ。さらには、そんな感情を抱きつつも翠を何事もなくエスコートできる秋兄に嫉妬する。毎回のように感じる、この余裕の差が恨めしい。
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