光のもとでⅡ
「そのとき、何かなかったの?」
「うーん……何か、と言われても――」
 翠葉は宙を見ながらその日の出来事を思い返しているようだ。
「……私たち、あの日はお互いの格好に見慣れていなくて、なかなか目を合わせることもできなかったの。だから、会ったときはとてもぎこちなくて、ギクシャクしている感じだったのだけど……途中からは割といつもの調子で話せていた気がする。でも、話すといってもいつもと同じで、会話の必要が生じたときにしか話さなくて……」
 翠葉と藤宮司の心境は理解できなくもない。もし、いつもとは違う出で立ちの蒼樹さんを見た際には、私だってうろたえてしまうだろう。
 それに、翠葉と藤宮司は普段から言葉数が多いほうではないし、ふたりが一緒にいるからといって、常に会話しているわけではないことはよく知っている。そのふたりを知っていても、最近の藤宮司は異様な態度を取っているとしか言いようもなく――。
 なぜ、翠葉を遠ざける必要があるのかは、皆目見当がつかない。
「理解に苦しむわ……」
「私、嫌われたのかな……」
「それはないと思うの」
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