光のもとでⅡ
 バスルームにはヘアトリートメントとミュージックプレーヤー、携帯の三つを持ち込んだ。
 心ゆくまで髪の毛のメンテナンスをして、柑橘系の香りがするお湯に浸かれば携帯で小説を読み始める。でも、曲を聴くのもお話を読むのも、さほど集中することはできなかったし、リラックスもできなかった。
 携帯に入っている友達の写真を見ても、何をしてもツカサのこと考えてしまう。
「……気分転換の失敗」
 これはもう、何もかも諦めて考えろ、ということなのだろうか。
 私は観念して、お風呂に充満している香りを胸いっぱいに吸い込んでから、バスタイムを終わりにした。

 自室で髪の毛を乾かしていると、キィ、と外のポーチが開く音が聞こえた。
 インターホンが鳴らないところを見ると、家族の帰宅か栞さんの来訪だろう。
 唯兄かな? 栞さんかな?
 ドライヤーを止めてドアを振り返ると、顔を出したのは蒼兄だった。
「おかえりなさい」
「ただいま。……こんな時間から風呂?」
「うん。……ちょっと気分転換したかったの」
 結果は見事に惨敗だけれど……。
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