光のもとでⅡ
『……私に用事って、何? 電話じゃだめなの?』
 昨日感じた、「これ以上話したくない」という空気に酷似したものを感じる。暗に、「会いたくない」と言われているような、そんな感じ。
 でも、今日は引かない。
「できれば会って話したい。だから、予定がないなら髪の毛乾かしたら十階に来て」
『……うん。でも、十五分くらいはかかるかも……』
「わかってる。急がなくていいから」
『わかった。……あ、今日ね、フロランタンを焼いたの。切り分けて持っていくね』
「待ってる」
 通話を終えてため息ひとつ。
「……俺の考えすぎか?」
 翠にしては単調すぎる話し方だった。そこにきてフロランタンのあれこれ。時間稼ぎをされている気がしてならないんだけど……。
 それも仕方ない、と思うべきなのか。
 どちらにせよ、翠は人を待たせるのが苦手だ。時間がかかる、とは言いながらもそれほど待たせることはできないだろう。
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